テトラさん、「→(シフト)」とテクノロジーってどんな関係なんですか?
テクノロジーの進化によってわたしたちの生活は大きく変化しています。SNSなどのサービスで人々が思いや考えを共有したり、自らが発信者になったりできます。「こういう風に社会を変えたい」と宣言すれば、クラウドファンディングのシステムを利用して個人でも資金を調達することができます。
先ほどAIと雇用の話をしましたが、わたしたちの社会での行動動機は「不安」と「愛」の2つに分けられると言われています。例えば、仕事は「お金を稼がないと生きていくことができない」という不安が動機のひとつとなっています。では、そこにベーシックインカムという考え方を導入するとどうでしょうか。ベーシックな生活の保障がされることで、不安だから仕事をするという意識が緩和されます。お金儲けだけではない部分にも価値が見出されることで、NPO的な社会貢献や利益に結びつかず敬遠されてきた学術分野の基礎研究や商品化が困難だった伝統工芸などの領域に、仕事という時間を割くことができるようになります。
さらに、テクノロジーが進化することで、人間とテクノロジーという二分化された考えは無くなりつつあります。人間の動作や能力を補完したり拡張したりする人体拡張のテクノロジーなどはその最先端です。義手や義足をつけている方はもはや障害者ではなく、健常者より身体能力を発揮することさえできます。AIは資源の調達や生産、流通、消費、そして再資源化という一連の流れを、人間以上の能力で最適化することができます。テクノロジーは人間が不得手としたり、できなかったりする部分を補ってくれる存在となってきています。「→(シフト)」はテクノロジーと共にあり、世界のいろいろな場所や地域で具体的なかたちとして動き始めています。
テトラさん、人間の能力のあり方や人間らしさって変わっていくのですか?
人間にとって頭の良さ、スマートさは何かという基準は、これまでの「暗記」ではなくなっています。ある地域の課題を解決する法律を策定する場合、AIを利用すれば人類が積み上げてきた全ての法律の中から最適なものをピックアップし、それをもとに作成することが瞬時にできます。人の力による暗記はAIの前ではあまり役に立ちません。しかし、人間はそうした「暗記」から解放されることで、わたしたちが本来備えていた能力を発揮することができるようになります。全く新たな産業を立ち上げたり、これまでにない発想で課題を解決したりする。0から1を創造する。これからの人間には、さまざまなステークホルダーの合意形成を引き出す交渉力やコミュニケーション力が大切になってきます。
そうした力のベースとなるのは五感や共感といった人間らしさを引き出す能力です。大脳生理学の最新の研究では人間の脳とコンピュータのCPUの差異がほとんど見られないことが報告されています。シナプスのオンとオフだけで、カーボン生命体かシリコン生命体かの違いがあるだけというのです。そこで人間らしさとして残る領域は「感受性」です。赤い色を見たときに数値ではなく赤いと感じる。甘いものを食べた時に数値ではなく甘いと感じる。五感を通して人間だけが感じるクオリア(感覚質)とでもいうものと、そこから生まれる共感。テクノロジーが発達して多くのことがデジタル化されていっても、「最後の最後に何をどう感じるか」という領域は残ります。その領域を大切にする。感受性を磨き上げることが人間らしさの復権になる。人間はもっと豊かになれる。わたしたちの生き方も変わってくると思います。
テトラさん、5年ぶりに開催されるWorldShift Kyoto Forum、どんな期待を込めていますか?
わたしを含めてみんなが5年前とは状況が激変していることを実感しています。環境・経済・社会のそれぞれの分野で、課題の構造的変化、テクノロジーやイノベーションの指数関数的な進化、世界的な権力構造の転換など、あらゆるものが複雑に絡み合い、パラダイム変化の臨界点を迎えつつあります。大げさでなく言えば、人類は幕末の時代に匹敵する大きな文明の転換点に位置していると思います。初の京都開催となる今回のWorldShift Kyoto Forumは世界に向けて日本のシフトを宣言する大きな意味を担うことになると思います。
テーマは「まなぶ、つながる、うごく」です。オープニングにはWorldShiftの提唱者であるアーヴィン・ラズロ博士の最新のメッセージを映像で流し、これからのマインドセットを共有します。基調プレゼンテーションはわたしがこれから予測されるパラダイムの転換について概論をお話しします。「まなぶ」にあたるファーストセッションでは、環境・経済・社会の分野のエキスパートに、それぞれの分野における最新のパラダイムについて話してもらいます。「つながる」はまなぶの内容を受けて、それをどう深め、つなげていくかを目的に、働き方や生き方、コミュニケーションのあり方をテーマに、モデレーターを中心にトークセッションを行なっていきます。最後のセッションは京都で最古の禅寺である建仁寺の副住職を迎え、イノベーションを生み出す心のあり方、何千年に渡る日本文化の歴史の中で培われたマインドフルネスを学び、参加者全員でWorldShiftを宣言する「うごき」を生み出していきます。
WorldShift Kyoto Forum 2018 −まなぶ、つながる、うごく−
2018 年2 月4 日(日) 13:00 -18:00 京都芸術劇場 春秋座(京都造形芸術大学内)
主催:一般社団法人ワールドシフト・ネットワーク・ジャパン
共催:京都造形芸術大学、公益財団法人 信頼資本財団
【プログラム】
ビデオメッセージ:アーヴィン・ラズロ博士(世界賢人会議「ブダペストクラブ」創設者・会長/システム哲学者)
基調プレゼンテーション:谷崎テトラ(ワールドシフト・ネットワーク・ジャパン代表理事/放送作家/京都造形芸術大学教授)
ワールドシフト・プレゼンテーション:並河進(株式会社 電通/クリエイティブディレクター) 佐藤正弘(東北大学准教授/環境経済学・情報経済論)
佐々木重人(ライター/ダイレクトデモクラシー) 熊野英介(公益財団法人信頼資本財団 理事長/アミタホールディングス株式会社代表取締役)
丹下紘希(人間/映像作家) 兼松佳宏(勉強家/京都精華大学特任講師) 西村勇哉(NPO 法人ミラツク代表理事/国立研究開発法人理化学研究所未来戦略室 イノベーションデザイナー) 伊藤東凌(建仁寺両足院 副住職) /他
ファシリテーター:本間正人(京都造形芸術大学教授・副学長) 大江亞紀香(コア・クリエーションズ代表/コーチ・NLP トレーナー)
お申込み:事前申込要: 2/2( 金) まで
参加費( 前売のみ・全席自由) :一般:2,000 円 / 学生・招待:無料 /
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