183.『人口減少社会のデザイン』書評

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社会医療人の星

2050年、日本は持続可能か?

「日立京大ラボ」のAIが導き出した未来シナリオと選択

こんなセンセーショナルな副題が付いている本書に

興味が湧かない訳がありません。

しかも、著者は的確なデータ分析と大所高所からの視点を併せ持つ広井良典氏です。

千葉大から京都大学に移られたことは承知していましたが、

AIによる未来予測研究をされていたとは知りませんでした。

AI分析の場合、血の通わない、現実乖離の提言が出されたりする印象が強いのですが、

広範囲な学問背景と歴史観を踏まえた良識の人、

広井教授のフィルターを通すことで

説得力のある10の提言がなされています。

それらの紹介の前に、広井氏の時代認識を押さえておきましょう。

  • 昭和=集団で一本の道を登る時代
  • 平成=失われた30年
  • 令和=人口減少社会のはじまり

と括っています。

平成の日本は、昭和の「拡大・成長」という「成功体験」から

その幻想を追い続けていただけのような気がします。

「持続可能な社会」モデルへ舵を切らなければならなかったにもかかわらず、

決断を先送りしてきたのです。

平成の世は、規模の大小を問わず、多くの組織が決断を先送りしてきたように思います。

元号が令和に変わった このタイミングで、

人口減少社会の到来をしっかりと認識し、行動を起こすべきです。

広井教授が本書で最も言いたかったことは

10の提言の中身以上に

「皆で覚悟を決めて、人口減少社会の日本をデザインして行こう!」

ということではないかと勝手に解釈しています。

その10の論点と提言は以下です。

  1. 将来世代への借金のツケ回しを早急に解消
  2. 「人生前半の社会保障」、若い世代への支援強化
  3. 「多極集中」社会の実現と、「歩いて楽しめる」まちづくり
  4. 「都市と農村の持続可能な相互依存」を実現する様々な再分配システムの導入
  5. 企業行動ないし経営理念の軸足は「拡大・成長」から「持続可能性」へ
  6. 「生命」を軸とした「ポスト情報化」分散型社会システムの構想
  7. 21世紀「グローバル定常型社会」のフロントランナー日本としての発信
  8. 環境・福祉・経済が調和した「持続可能な福祉社会」モデルの実現
  9. 「福祉思想」の再構築、“鎮守の森”に近代的「個人」を融合した「倫理」の確立
  10. 人類史「3度目の定常化」時代、新たな「地球倫理」の創発と深化

どの提言もしっかりとした論拠があり、納得のいくものです。

いくつかの学びを列記します。

  • AIが示す日本の未来シナリオ:「都市集中型」か「地方分散型」かが最大の分岐点(23)
  • ヨーロッパの街―人間の顔をしたスマートシティ、「サード・プレイス」(29)
  • 日本の街―アメリカ・モデル 自動車・生産者中心➡中心部の空洞化、シャッター通り(31)
  • 「時間軸」が優位の時代から「空間軸」が優位の時代への転換(51)
  • 「地域からの離陸」の時代から「地域への着陸」の時代へ(52)
  • 「定常型社会」(69):2100年に向けて各国の出生率が2.0に収斂していく/日本の人口は概ね8000万人前後で定常化する(2100年)
  • 高齢化の地球的進行(Global Aging)(70)
  • カール・セーガン『エデンの恐竜』(83):「遺伝情報➡脳情報(➡文字情報)➡デジタル情報」=外部化、外的足場
  • 「地域密着人口」の増加(95)
    人口減少社会のデザイン
  • 「ローカルな地域コミュニティ」(96)
  • 「鎮守の森・自然エネルギーコミュニティ構想」(134)
  • 資本主義と科学の基本コンセプトの進化:物質➡エネルギー➡情報➡生命/時間(139)
  • クロード・シャノン:情報量の最小単位である「ビット」の概念の体系化、情報理論の基礎形成(144)
    科学技術の革新「原理の発見・確立➡技術的応用➡社会的普及」
  • 人類史における拡大・成長と定常化のサイクル(160)人口減少社会のデザイン
  • 資本主義=市場経済プラス限りない拡大・成長への志向(163)
  • マンデヴィル:『蜂の寓話(The Fable of the Bees)』(164)「欲望が少ないということは個人の徳としてはいいかもしれないが、社会全体の富にはつながらない。国民の富や栄誉や世俗的な偉大さを高めるには、むしろ強欲や放蕩が社会全体にとってのプラスになる」「私的な悪徳が公共的な利益である(Private Vices, Public Benefits)」
  • 規範や倫理というものは、時代を通して一律なのではなく、その時代の社会経済の状況に依存して生成する。(165)
  • 人間の概念、思想、倫理、価値原理といったものは、最初から天下り的に存在するのではなくて、究極的にはある時代状況における人間の「生存」を保障するための“手段”として生まれる(168)
  • 「人生前半の社会保障」(206)
  • 病気の根本原因というものは、身体の内部ではなく社会や環境の中にある(241)
  • 「たましいの還っていく場所」(260)
  • 個人の根底にあるコミュニティや自然、ひいてはその根源にあるものを再発見することで、新たな死生観が開ける(271)
  • 「グローバル化の始まり」を先導した、まさにそのイギリスにおいて、「グローバル化の終わり」という方向への動きもまた始まった(279)「グローバル化の終わりの始まり」
  • 持続可能な福祉社会 sustainable welfare society(282)
  • 経済・経営をめぐる日本での理念や実践の歩みを長い時間軸でとらえ返すと、「持続可能性」という価値あるいはそこでの「経済と倫理の融合」という理念は、明確な底流として存在している。(289)
  • 「地球倫理」(299)
  • 「ローカル」(地域的・個別的)と「ユニバーサル」(普遍的、宇宙的)という対立を架橋ないし総合化する理念としての「グローバル」(302)

(是非、本書を手に取って、ご自身で確認してみて下さい。)

しかし、このうちどれだけが実現するだろうかと考えてみると

半分も実現しないのではないかという気もしています(汗)。

なぜなら、実現には個々人が

人口減少社会を生きるという強い覚悟を持たなければならないからです。

もう先送りは許されません。

行動あるのみです。

2019年11月13日