Netflixで興味深いドキュメンタリー映画を見つけました。
「天才の頭の中」<ビル・ゲイツを解読する>です。
私生活を含めたビル・ゲイツの姿を
その知的生活を中心にまとめたものです。
著名な経営コンサルタントの大前研一氏は、
紀元前のB.C.(Before Christ)に対して、
今日では1955年を紀元とし、それ以前をB.G.とすることを提言しています。
B.G.はBefore Gatesであり、マイクロソフト社の創業者ビル・ゲイツ氏をChristになぞらえています。
ビル・ゲイツこそ、フランシス・ベーコンの名言「Knowledge is power」を名実ともに体現した人物だからです。
彼は世界長者番付で1993年から13年連続で世界一となっています。
誰もが認める世界一の大富豪です。
財力が力そのものであるかは議論のあるところでしょうが、
今日では財力がそのまま権力に直結することを完全に否定できる人はいないでしょう。
コンピュータ・ソフトという知的創造物に基づく知的所有権、知的財産権により、
一気に世界一の権力者(あるいはインフルエンサー)の座まで登り詰めたのです。
これこそ、現代が「知識社会」となったことの証左です。
フランシス・ベーコン(1561-1626)の時代から400年後に
ようやくその名言が現実化したのです。
大前氏の指摘通り、これは大変な分岐点です。
その分岐点をもたらしたもの、それはコンピュータです。
その発端はクロード・シャノンによる「情報理論」と言われています。
1937年、クロード・シャノンは電気回路でブール代数を扱えることを発見しました。
「継電気とスイッチ回路の記号論的解析」という論文にまとめられ、
最も重要で有名な修士論文と言われています。
スイッチのオン・オフを記号論理の真・偽に対応させると、
スイッチの直列接続はANDに、並列接続はORに対応することを示し、
あらゆる論理演算がスイッチ回路で実行できることを証明したのです。
この発見(発明)によりコンピュータはただの計算機から論理演算機に昇格したのです。
この「情報理論」が情報社会を到来させ、
コンピュータによる知識のあり方を根本的に変えたのです。
映画について少しだけ述べます。
Netflixオリジナルの3部作です(各50分)。
ビル・ゲイツが真の天才なのだということを納得させられました。
彼の好物は、あらゆる種類の難問のようです。
答えの見つかっていない問題に果敢に臨んでいきます。
日々、知的決闘に身を置いていくのです。
メリンダ夫人が「彼の頭の中はカオスよ」とコメントしていましたが、
世界全体のカオスに挑む彼のCPU(頭脳)は
他人から見ればカオスにしか見えないのでしょう。
ポリオ撲滅、衛生的な水問題、気候温暖化など、
世界規模の問題、課題に、同時進行で対峙していきます。
気候温暖化については、新型の原子力発電所設計で対応しようとしています。
それぞれの専門家と対等、否、それ以上のアイディアで難題を解決していく姿には
本当に驚かされます。
高い集中力を長期間持続できる点も彼を天才にしている要因です。
映画を観る前、世界一の大富豪、成功者が、
一体何に価値を見出して、日常生活を送っているのかに非常に関心がありました。
映画の中の彼は只管、勉強し思索を深めていました。
驚いたことに彼は、分厚い紙の本で勉強しているのです。
パソコンではなく、ホワイトボードやノートに書いて思考を深めていました。
小さいころからの癖なのでしょうが、メガネのツルを噛み噛みしながら、
また、コーヒーではなくCokeを飲みながら、
物凄く難しい問題を考えているのです。
映画からは、メリンダ夫人への愛情、尊敬の深さも伝わってきました。
彼の成功を支えた大きな要因であることは間違いありません。
映画の後半で
「結局は、何を得るのかではない。何になるかである。」
というメッセージがありました。
昭和の著名な陽明学者 安岡正篤氏の言葉をお借りすれば
「To do good」より「To be good」なのでしょう。
彼こそ、「Knowledge is power」の体現者であり、
知識社会の王者、トップランナーです。
そんな彼が、その膨大な知識や力を全力で振り向けているのは社会貢献でした。
となると、知識社会のパイオニアによって新たに創造される社会、
それは「Moral is power」を体現する社会なのかもしれません。
私は、そう信じています。
2020年10月14日