タイトルに何か惹かれるものがあり、読んでみました。
ベスト新書から出版された『人生にはやらなくていいことがある』です。
著者の柳美里さんのことは芥川賞作家とは認識していましたが、
これまで殆ど知りませんでした。
本書によってその人となりが分かったような気がします。
ご関心のある方は専用サイトがありますのでどうぞ。
正直、驚きました。
中学時代の不登校、高校中退、繰り返される自殺未遂、
16歳での「東京キッドブラザース」という演劇との出会い、
19歳での自身の劇団立ち上げと続きます。
何と早熟で、スピード感のある人生でしょうか?
自身の半生が赤裸々に綴られています。
そのあまりにも早熟な精神は
中学時代から生きることにもがき苦しんできたのでしょう。
そんな中にあっても、
木田博彦先生というクリスチャンの化学教師との邂逅が紹介されています。
私にはその存在がとても有り難いと感じました。
彼女にとって有り難い存在であったのは勿論でしょうが、
他人の人生であってもこういう人物が登場してくれていることに
私は世の中に対する信頼や希望を見出だせるのです。
彼女が口にする「美」に目を向けるということは、
誰もが賞賛するような分かりきった美が対象ではありません。
人それぞれの「今」という瞬間を
生き切ることによって美が自ずと表出してくると捉えているようです。
全く同感です。
Realityの欠如が指摘されて久しいこの世の中ですが、
彼女の人生はリアルそのものです。
彼女が多くの読者を魅了しているのは
その人生の密度によるのかもしれません。
否、正確には人生に対する角度なのだと思います。
(結果として、その密度が違ってくるのです。)
人は文学作品を読む時、
自分の経験できない広い世界を学びます。
また、時に自分では知り得ないほどの深い世界を学んだりします。
私は本書によって
広さや深さ以外に
その人生の密度(人生に対する角度)に圧倒されました
Realityを超えたActualityを感じるのです。
「ツ・ナ・ガ・ル」24号の特集:「NO参加、NO LIFE」の主張そのものです。
となると、本書のタイトルには違和感を憶えざるを得ません。
彼女の本心としては、やはり
『人生にはやるべきことがあふれている』となるのではないでしょうか。
どなたも、本書から力強い何かを感じ取られるはずです。
最後に彼女が片時も離さず繰り返し読んでいるという
エマニュエル・レヴィナス『全体性と無限』の一節を紹介します。
自己の外部で存在することができるものとして
定義されなおされなければならない。
彼女は年が変わる毎に、
新しい手帳にこの言葉を書き写しているそうです。
また、刮目すべき対象が増えました。