者のみなさん、このエッセイでは、2013年も、
楽しい音楽とお酒の話題をお送りしたいと思います。
引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。
私事ではございますが、先日、第1回クラシック・ソムリエ検定を受検し、
すばらしい高得点を取ることができました。ちょっと自慢です(笑)。
さて、今回は、前々回の『風光明媚な音楽』の続編としまして、
冬にふさわしい、北欧の作曲家による作品をご紹介したいと思います。
北欧の作曲家というと、まっさきに浮かぶのが、ノルウェイに生まれたグリーグです。
グリーグといえば、組曲『ペールギュント』の第1曲『朝』や、
ピアノ協奏曲などが有名ですが、
今回ご紹介したいのは、交響曲です。
「え? グリーグって交響曲も書いていたの??」という方もいるかもしれません。
この作品、いったん完成されたものの、
グリーグ自身によって、「演奏すべからず」と書き込まれ、出版すらされず…、
グリーグの死後74年、作曲されてから120年近くも経ってから日の目を見たという
曰く付きの作品なんです。
しかし、聴いてみていただくと、演奏しないなんてもったいないくらい完成度の高い作品です。
さすが、グリーグ! 亡くなって何十年もたってからも、多くの人を唸らせる、
そんな仕事ができたら、すばらしいですよね。
今回お聴きいただきたいのは、その第1楽章です。
冒頭のハ短調の部分は、雲に覆われた薄暗い空や、
北欧の切り立った崖のような大自然を思わせるふんいきがあります。
続く経過句と第2主題(1:09〜)以降にも、白夜のような幻想的なふんいきが感じられます。
もうひとつご紹介しておきたいのが、『2つの悲しき旋律』より『過ぎた春』です。
ここでいう「春」は、単に季節の春だけを意味しているのではないと思いますが、
寒い北国の人々が、春の優しい風や、うららかな日射し、
美しい夕暮れなどを愛おしむ気持ちが感じられませんか?
北欧の作曲家で、次に思い浮かぶのは、やはりフィンランドに生まれたシベリウスでしょう。
シベリウスの作品は、極北の大自然の雄大さ、厳しさを感じさせるものが多くあります。
なかでも、どうしても欠かせないのが、交響曲第2番です。
第1楽章の冒頭など、森と湖の国フィンランドを、朝日を浴びながら馬で駆け抜けていくようなすがすがしさがあります。
第4楽章の冒頭(28:26〜)も、雄大な自然のパノラマを見るような趣きがあります。
また、『トゥオネラの白鳥』のように、凍てつく極寒の世界を思わせる作品もあります。
シベリウスの作品を聴いていて、時折感じるのは、
その音楽の随所に織り込まれた静けさです。
フィンランドの長い冬、昼なお暗く、
きっと夜には、物音ひとつしない静寂の世界があるのではないでしょうか。
常に何らかの物音に囲まれた生活をしている我々には想像もできない世界なんだろうなと思います。
フィンランドには、もう一人、北欧の風景を連想させる作曲家がいます。
ラウタヴァーラです。
なかには、録音された鳥の鳴き声を使用した
『鳥と管弦楽のための協奏曲 カントゥス・アルティクス』のようなユニークな作品もあり、
沼地に休む鳥たちの朝の光景や、渡っていく白鳥が見渡す北欧の大地が描かれています。
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また、交響曲第7番『光の天使』や、
『幻想の書』から『愛の物語』などのように、
まるで北欧の空を彩るオーロラのような幻想的な色彩に富んだ作品もあります。
今回、北欧の作曲家として、最後にどうしてもご紹介したいのが、
スウェーデンの作曲家、ベルワルドです。
作曲家としては不遇だったベルワルド、ベルリンで整形外科医院を開業したり、
ガラス工場の経営者をしたりと、波乱の人生を送った作曲家なんです。
現在でも、その知名度は高くないのですが、
あのノーベル賞授賞式が行われるホールは、なんと、ベルワルド・ホール。
そう、こんなところに名前を残しているんですョ。
代表作は、交響曲第3番『サンギュリエール』です。
※動画は調整中です。しばらくお待ち下さい。
第1楽章の冒頭を聴いてみてください。
北欧の雄大な自然、夜明けや、鳥のさえずり、木々を渡る風、
北欧独特の静けさが感じられませんか?
そして、天使が戯れるような経過句(1:42〜)に続くクライマックス(1:53〜)では、
シベリウス同様、大自然の中を疾走するような壮大な音楽が繰り広げられます。
こんな型破りな作品が、グリーグに先立つこと20年ほど前、
シベリウスにいたっては約50年も前に書かれていたなんて!!
まさに、驚きを禁じ得ません。
ベルワルドの音楽には、その後の北欧の作曲家の作品が備え持つすべての要素が、
内包されているのです。
それだけでなく、前回ご紹介したブルックナーのような、瞑想的な世界をも暗示しています。
不遇な生涯を生きたベルワルドですが、その作品は、彼の生きた時代をはるかに超えて、
私たちに大きな感動を与えてくれるのです。
次回は、ワインの風味の驚くべき多彩さについて書いてみたいと思います。お楽しみに。
※掲載内容は連載当時(2013年2月)の内容です。