先日、新潟でライブさせていただきました。
全国あちこちに伺っておりますが、実は、新潟ライブは今回が初めて。
ところが、蓋を開けてみれば…、新潟のみなさん、とってもリアクションが良く、
喜んでいただけたみたいで…、ワタクシもとってもうれしくて、
ルンルンしながら帰って参りました。
これで、ライブしていない県は、秋田、長野、滋賀の3県のみとなりましたョ(笑)。
ところで、新潟といえば、米どころ、酒どころですよネ。
おいしい日本酒をたくさんいただいて参りました。
全国各地には、千を越える数の酒蔵がありますが、
たとえ同じ品種のお米を使っていても、酒蔵ごとに風味が違う…。
日本の誇るすばらしい文化です。
ワインも同じです。同じブドウ品種を用いていても、
ワイナリーごとにさまざまな個性があります。
あるとき、イタリアとスイスの国境、
トレンティーノ=アルト・アディジェという地域で造られた
ソーヴィニオン・ブランの白ワインを飲んだことがあるのですが、
なんと、ワインとは思えないような、花や香水の香りがするんです。
ユリやジンチョウゲのような、白い花の高貴な香り。
しかも、部屋全体を包み込むくらいの香りがグラスから溢れ出てきたのです。
ブドウからこんな香りが生まれるなんて!
奇跡としかいいようがないと思いました。
その隣の州、フリウリ=ヴェネツィア・ジュリアの、ある天然酵母を使った白ワインには、
ムスクのような、動物的で、ちょっと泡盛にも似た香りがありました。
こうした個性は、もちろん、ブドウの栽培や、
樽による熟成といった製法の違いによって生まれる場合もありますが、
実は、その影で、地道に頑張っている存在があるからなのです。
それは…、酵母。
前々回、ボジョレー・ヌーヴォーはフルーツドロップの香りがすると書きました。
この独特な香りにも、実は酵母が関与しているんです。
お酒のなかに含まれる、フルーツドロップや、バナナ、リンゴ、メロンなどのような
香りの正体、それは、エステルという化合物。
そして、そのエステルを造っているのが、酵母なのです。
ワインには、百種類を越えるエステルが含まれているといわれています。
日本酒にも、吟醸香といって、バナナ、リンゴのような香りが含まれるといわれています。
バナナのような吟醸香は酢酸イソアミル、リンゴのような吟醸香はカプロン酸エチルというエステルがその主成分といわれています。
近年では、これらの成分を通常の何倍も多く産生する酵母が開発され、広く使われているようです。
エステルは、低温で長時間発酵を行った際に、酵母によって造られるといわれています。
だから、おいしい日本酒は、冬の寒い時期に仕込まれるんですね。
それにしても、酵母って、単にアルコールを造るだけではないんですね。働き者です。
日本はバイオテクノロジー大国。
実は、お酒を造る酵母も、最先端のクローン技術によって、
どんどん開発され、実用化されているんです。
先ほどの吟醸香の成分を多量に産生する吟香酵母は、日本酒のほか、泡盛にも応用されています。
泡盛には、そのほか、自然の花から採取した花酵母、黒糖酵母、マンゴー酵母なども使われているんですョ。
そして、泡盛業界では、最近、究極の酵母が開発・実用化されました。
ワタクシの知り合い、バイオジェットの塚原正俊さんが開発した「芳醇酵母」です。
何年〜何十年も熟成させた泡盛の古酒(クース)。
そのおいしさのもとになる成分は、バニリン(バニラの香りの成分)やマツタケオールなどだといわれています。
芳醇酵母は、このバニリンの前駆体4VG(4ビニルグアヤコール)やマツタケオールを多量に産生するんです。
ということは…、今までの泡盛に比べて、甘みや深みが濃い!
この芳醇酵母を使って造られた泡盛が、神村酒造の「芳醇浪漫」。
バニリンは従来の2.0倍、マツタケオールは従来の10.5倍も含まれているんだそうですョ。
ウソだと思ったら、ぜひ飲んでみてください。
今飲んでも、とってもおいしいんですが、
この泡盛が数年経って、古酒になったとき、果たして、どんな風味になるのか、
とっても楽しみですよネ。
詳しくは、神村酒造HPで。
http://kamimura-shuzo.co.jp/
このように、最先端技術によって生まれた酵母たちによって、
今までになかった風味を持つお酒が造られるようになりました。
しかし、その反面、困った問題も起こるようになったそうです。
例えば、吟醸香の成分を多量に産生する酵母を用いることによって、
多くの酒蔵が簡単に「吟醸酒」を造れるようになったことです。
おいしいお酒を簡単に造れるんだったら、いいことじゃないかと思う方も多いと思います。
自分も、手軽においしいお酒が飲めることは、いいことだと思います。
ところが、その背後で、極寒のなか、
昔気質の手作りで吟醸酒を造っている酒蔵にとってみれば、
簡単かつ低コストで、同程度の風味の吟醸酒が造られてしまうことに、
腹立たしささえ覚えるかもしれないのです。
また、多くの酒蔵が同じ酵母を使うことによって、
画一的な風味のお酒が増える恐れもあります。
科学技術の進歩は、私たちにさまざまなメリットをもたらしてくれます。
これは、医療、介護の分野でも同じですよね。
私たちは、その恵みを医療、介護に活かせるように、
日々、新しい知識を勉強し、それを積極的に取り入れる気持ちを持ち続けなければいけないと思います。
しかし、それらが、私たちが数世代にわたって持ち続けてきた大切なものを奪い去らないように、
常に慎重に向き合っていく必要があるでしょう。
次回は、音楽の話題。天才モーツァルトについて書いてみたいと思います。お楽しみに。
※掲載内容は連載当時(2013年6月)の内容です。