06.「砂の女」 安部公房

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山中英治 文学? 散歩
「砂の女」 安部公房

「砂の女」 安部公房

本号はクリニカルパス学会などで配布されるとのことですね。

私,今回は病院の行事と重なったのでパス学会には参加しません。

ですから「ツ・ナ・ガ・ル」を手にとって「この連載面白いなあ」と,

周囲に聞こえるように言う行為もできないので,

ここまで読んで下さった方は代わりにお願いします。

私のパスを始めたきっかけは,

医師のみなさんが良く似た指示を毎回書いていたので,

スケジュール表を作って標準化してしまったら便利だろうと思ったからです。

たいていの仕事は毎日良く似たことの繰り返しです。

若者が就職して慣れてくると

「毎日の仕事が同じでつまらない」「こんなはずじゃなかった」

「何か面白いことが無いかなあ」と思うことは良くあるようです。

昨今の新人の勤務医やナースは,

人手不足もあって「大事大事」にされているからか

「もう明日から来るな!」と叱責すると,

本当に来ないこともあるそうです。

挨拶はおろか電話もなく,

メールで「辞めます」と送ってきたという話も聞きます。

まだ,メールでも連絡があるだけマシだそうで,

連絡もなく病院に来ないので,

厳しく叱ったせいで思いつめたのかもと心配して寮まで行ったら

「寝てました」と寝呆け顔で出て来たとか,

さすが「ゆとり教育」世代です。

確かに「長時間働かせては駄目」「アルバイトの救急当直はさせるな」等々,

本人たちは働いて知識や技術を少しでも多く習得したいと思っていても,

お上からのお達しでままならぬこともあることは,

指導医も研修医も歯がゆいこともあるようです。

「やりたい仕事をさせてもらえない」「やりたくない仕事をさせられる」

これは表裏一体ですが苦痛なことです。

「では何故そんな仕事を選んだのか?」と問われると困ることも多いでしょう。

日本は大学や専門学校の入学の際に進路が決まってしまいます。

遊びたい,課外活動をしたい盛りの,まだ分別に乏しい高校生に,

人生が決まってしまう決断を迫るのですから無理もありません。

ましてや親や先生の希望や成績が良いというだけで,

理系なら医学部にと決めてしまったケースは,

医学部は医師以外にはなれないので,

本人が向いていない場合は世の中のためになりません。

就職に困らないからと看護師になったケースも同様でしょう。

ただ,たいていは私のように、

たいした志もないまま親の脛を齧って医師になっても,

働いているうちになんとか医師としての仕事はやっていけるものです。

たとえ微力でも人さまのお役に立てることで,

働きがいのある有難い仕事だと感謝しております。

医師に限らず医療職は働き甲斐では恵まれていると思います。

「砂の女」は,休暇を利用して砂地に生息する昆虫を採集に行った男が,

砂丘地帯の集落で泊ります。

集落の家々は砂地に穴を掘った住居で,

彼が泊めてもらった家には女が一人で棲んでいました。

地上への梯子をはずされてしまい,女との生活を強いられます。

毎日の仕事は家に入ってくる砂をひたすら掻きだすことだけです。

この集落は蟻地獄に捕えるようにして労働力を確保することで成り立っているのでした。

単調な毎日が厭で男は何度も脱出を試みますが,

次第に女とは夫婦のように情が通い,

また穴で湧水を発見したことに喜びを感じて,

後日逃げ出せる状況になっても穴の住居にとどまります。

所詮仕事は毎日同じことの繰り返しであり,

そこから逃げ出したところで、

別の場所で種類は違えど同じことを毎日するのは一緒です。

ならば与えられた仕事に希望を見出すこと,

毎日を精一杯過ごすことが大事なのでしょう。

いずこの夫婦の出会いも偶然のなせる業なので,

長く一緒にいるほど情は深まり,

他に目を向けてもたいして良いことも無いのが通例です。

先日亡くなったアップル社CEOスティーブ・ジョブズ氏は

「毎日を人生最後の日だと思って大切に過ごさねばならない」と述べられましたが,

私は「ツ・ナ・ガ・ルの原稿は,また明日でいいや」と缶ビールを片手に,

毎日くだらないテレビ番組を観るのでした。

※掲載内容は連載当時(2011年12月)の内容です。