03.「菊と刀」 ルース・ベネディクト

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
SNSフォローボタン

フォローする

山中英治 文学? 散歩

「菊と刀」 ルース・ベネディクト

尖閣諸島の件で日本人の世論が中国への怒りに向かっている時に,

タイミング良く中国の弾圧されている民主活動家にノーベル平和賞が授与されました。

日本の政府が及び腰なのに,ノルウェーのノーベル賞委員会はかっこ良すぎますね。

けれども中国には拘束された会社の社員だけでなく多くの日本人が在住していますし,

レアアースだけでなく貿易では中国に依存するところが大きいし,

まあそこは根回しで落とし所を探るというのも大人の対応ではあるまいかと,

日本政府首脳に同情を禁じ得ないのは私だけではないと思います。

反面私はナショナリズムも強いので、

これを機会に尖閣諸島に自衛隊が駐留して欲しいという人の気持ちも解ります。

そもそも日本の「世論」ほどあやしげなものは無いでしょう。

テレビのニュース番組では、新橋のガード下で酔っ払ったサラリーマンや,

梅田の歩道橋を歩いている買い物帰りのそこいらのおばさんにマイクを向けて

「日本の政治はダメだね」とか言う映像を流し、

軽薄なキャスターが「何とかならないもんですかね」とコメントします。

制作費も安上がりですし、

日本の世論というものがその程度であると認識しての確信犯かもしれません。

かくいう私もテレビの前で缶ビール片手に

「そうだ,そうだ」とうなずいているのでえらそうなことは言えません。

「沖縄に米軍基地があるのはけしからん」と言っていた人が、

ひと月後に「沖縄の米軍と協力して尖閣諸島を守るという気概がないのはけしからん」

と言うのは、この国では珍しくもなんともありません。

中国の件や大阪地検特捜部の検事の逮捕,小沢さんの強制起訴などのせいで,

すぐに消えて忘れられてしまいましたが,

医療関係のニュースでは某大学病院のアシネトバクター院内感染があって,

これも「実にけしからん」という論調で新聞の一面に載りました。

アシネトバクター自体は弱毒菌で、たとえ多剤耐性であったとしても、

健常人にとってはそれほど怖い菌ではありません。

広い日本で板橋区だけにいるというはずは無いので,おそらくそこら中にいるでしょう。

去年の新型インフルエンザの時も、まるで前世紀にペストが出たような大騒ぎでしたが,

この冷静な判断が出来ないマスコミをはじめとする我々日本人を,

落ち着かせることのできる偉い人はこの国の中枢にはいないのでしょうか?

人気取り(票集め)のために、手当てや補助金をばらまく。

ばらまく元手が無いが、税金を上げると選挙に負けるので借金で賄う。

高速道路や新幹線や空港も近くにあった方が便利ということで,

どこでも言われるままに地元への利益誘導で造る。

集約しないので各々の利用者が減って共倒れになり,

会社は倒産して税収が減り,また国の借金が増える。

借金が増えると予算を削らねばならないので、

集票マシーンとなる団体も無く,献金も少ない医療や福祉の分野が削られる。

年金は高く、医療費は安く、税金は払いたくない、

アクセスは便利にして、補助金は欲しい。

そんな自分勝手なことばかり言う幼児性はいつからなのでしょう?

戦後教育のせいなのでしょうか?

外来で診ていると実感することですが,

同じような怪我をしても子供はすぐに治りますが,

年をとるほど治るのに時間がかかります。

身体の傷も心の痛手も若い時には癒えるのが速いのです。

気分転換,心機一転が速いこともあってか日本は敗戦からすぐに復興しました。

日本人は自分が顔も知らない曾おじいちゃんが

隣の曾おじいちゃんにひどい目にあわされたからと言って,

そのひ孫の隣人に謝れとか言わないでしょう。

過去を引き摺るのが大人だというなら,

いやなことはすぐに忘れてしまう子供っぽさは長所と言えるかもしれません。

さて,外国人は日本人の特性をどのようにとらえているのでしょう?

「菊と刀」の著者は

「喧嘩好きだがおとなしく,軍国主義的だが耽美的で,

不遜だが礼儀正しく,頑固だが順応性に富み,

柔順だが命令されることを嫌い,勇敢だが臆病で,

保守的だが新しい物好きで,

他人の目を気にするが,ばれなければ罪の誘惑に負ける」

と表現しています。

「事態が変化すれば態度を一変し,

新しい進路に向かい歩みだすことができる」

とも書いていて,なかなか柔軟思考で良いではありませんか。

「世界のジョーク集」には,

日本人に効果的な命令は「皆さんがそうしていますよ」

と言うことだと書かれていますが,

私はイタリア人に最も有効とされる

「こうすれば女にモテますよ」というのが,

一番愛すべき理由かと思います。

※掲載内容は連載当時(2010年11月)の内容です。