好きな食べ物がソフトクリームで、
好きな作家が太宰治だというと、
大学生の次女に「少女趣味やね」と言われました。
そんなことはありません、
好きな飲み物は生ビールで、
「肴は炙った烏賊でいい~♪」のでオトナです。
確かに太宰が好きというのは、尾崎豊が好きみたいなもので、
少し気恥ずかしいかもしれません。
神経に鞘を着せていないような過敏な感受性をさらけ出して、
天才的な感性で反射的に表現してしまう。
こちらの感情の受容体を結構上手につついてくれるので、
「すごいなあ」と感心や共感をする反面、
やはりこの人たちはどこか頽廃的で破滅型であるように感じます。
頽廃は一方で甘美な誘惑ではないでしょうか。
場末の歓楽街を酔っぱらって歩くと、
何故か楽しいのは頽廃的な空気のせいかもしれません。
今は日本では廃れましたが、映画や演劇で観る「キャバレー」のショーなども、
頽廃的かつ官能的で、堕落願望をしばし満たしてくれます。
文学、音楽、演劇、映画、遊園地などは非日常の仮想空間に導いてくれるので楽しいです。
仮想であれば自分がたとえ悲劇の主人公になっても現実に戻れます。
終始ひどい目にあう人生は嫌ですが、没落貴族や、運命に引き裂かれる悲恋など、
仮想であれば経験してみたいと思いませんか。
太宰は地方の大金持ちの名士の家に生まれて何不自由なく育ちました。
男前でインテリですが、酒や女にだらしない放蕩息子で、
薬物中毒にもなり、借金もしまくって親族に迷惑をかけ、
そして何度も心中事件を起こしています。
生涯に心中に付き合って(?)くれるような女性が次々にいたことは、
男としては羨ましくもありますが、真似はしたくない人生です。
当医療法人の理事長は
「過去に借金、病気、女の問題のどれかで苦労して立ち直った男はな、
人間ができてるもんや」と常日頃申しておりますが、
太宰はさしずめ「男の苦労の三冠王」ですね。
「斜陽」は落日のことなので、太陽のような存在が落ちてゆく、
すなわち没落することを意味します。
この小説は没落貴族の人々を描いていますが、
本当に上品な人は愛おしく思われる反面、
俗世間にまみれては生きて生けないはかなさがあり、
この小説の一家は滅びてしまいます。
「本当に上品な人」というのは、ふつうならマナーに反する行為をしても、
シモの話をしても、上品に見え聞こえてしまいます。
これはもう先祖代々のDNAや、育った環境に拠るものなので、
後付けは不可能でお金では身に付きません。
斜陽の「お母さま」は、スープをスプーンの先から飲んでも、
肉を手でつまんで食べても上品に見えます。
きわめつけは御庭で娘さんとお月見をしていて、
ふと繁みに入られ、
「お母さまがいま何をなさっているか、あててごらん」とおっしゃっいます。
娘が「お花を折っていらっしゃる」と答えると、
小さい声をあげてお笑いになり、
「おしっこよ」とおっしゃるのです。可愛いですね。
私の所属する合唱団のヴォイストレーナーは、
カルメンの主役で舞台に立ったこともある魅力的な妙齢の女性声楽家ですが、
彼女は発声練習で
「軟口蓋を大きく開いて!、つまり、喉チンコの両側をぐっと開いて!」
「もっと、下腹にグッと力を入れて! そう、大きい方のおトイレを出すときのように!」と、
とても真面目な顔で叫ばれますので、まったく下品に聞こえません。
私は栄養分野が専門なので、
先日アミノ酸などの栄養剤のメーカーでもある「味の素」が発刊した
看護師向け情報誌「トゥモローナース」の編集顧問を依頼され、
なんと「看護師の品格」というコラムまで書きました。
最も品格の無い医者に書かせる勇気に敬意を表して勝手なことを書いてますので、
興味がありましたら栄養課に来られている味の素さんにもらってご笑覧下さい。
太宰治はデカダンスで知られていますが、
私はどちらかというと明るい作品の「御伽草子」という昔話のパロディが大好きです。
とくに「カチカチ山」に出てくるタヌキが、
これでもかというほど半端なく下品なので、
いやらしい中年男の理想像として憧れてしまいます。
※掲載内容は連載当時(2012年5月)の内容です。