05.「レクイエム」 モーツアルト

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山中英治 文学? 散歩
「レクイエム」 モーツアルト

「レクイエム」
モーツアルト

「文学?」なので,今回は楽譜です。

年を取って趣味が無いといけません。

医者も情操教育が必要です。

ということで,一昨年に地元の合唱団に入団しました。

練習日は土曜の夜で社会人が出席し易いはずなのですが,

土曜は地方会やセミナーも多いので,ついついサボりがちの劣等生です。

平均年齢が高く高音域のテノールが少ないこともあり,

昨今の病院における研修医のように大事にしてもらって辞めずに続いています。

一昨年の演目のフォーレのレクイエムに感動して

「絶対に自分の葬式はお経よりレクイエムが良い」と思い,

家内には「死にそうになったら敬虔なクリスチャンになる」と宣言したら

「懺悔することが多すぎて無理やね」と言われました。

そして,今年の演目はモーツアルトの絶筆「レクイエム」です。

安藤美姫が今年の世界フィギュア選手権で優勝した時のエキシビジョンでは,

レクイエムの「怒りの日」と「涙の日」で演じました。

大震災の後でもありとても印象に残った方も多かったことと思います。

このレクイエムは死期の迫ったモーツアルトのところに

「灰色の服に身を包んだ痩せた背の高い見知らぬ男」が依頼主の名を伏せて、

作曲の注文をしにきたというエピソードで有名です。

モーツアルト自身が死神に迫られて

自分のレクイエムを作曲したというように思い込んでも無理はありません。

事実モーツアルトは涙の日(ラクリモーザ)の8小節まで書いたところで亡くなっています。

ラクリモーザは実に、せつなく、はかなく、美しく、

近代ならテレサテンか尾崎豊といったところです。

このエピソードの実際は、地方の金持ち貴族のオヤジが、

有名なモーツアルトに作曲させて買い取って、

自分の作曲のようにして披露しようと使者を遣わせて依頼しただけだったそうです。

紛らわしい容姿の男を行かせたことで、モーツアルトもビビッてしまったことでしょうね。

他人に論文を書かせて、さも自分が書いたように発表するとか、

反対に不祥事が起これば秘書の責任にする等々、

似たような話はいつの時代にもあるようです。

クラシック音楽の作曲家や画家に関しては、

最近は昔のような天才的な人材が世に出ないような気がします。

昔は宮廷や貴族がこのような芸術家たちを道楽で養っていたので、

天才たちが芸術に専念できたのかもしれません。

封建制度は貧富の差がはげしくて良くない制度ではありますが、

成金とは違って育ちが良い人たちがお金を持っていたので、

芸術など上品なことに投資することが盛んであったことは、

良い作品が後世に残る要因であったようにも思います。

今でも米国などのお金持ちは、病院や音楽ホールや美術館を寄贈するなど、

規模の大きい篤志家も少なくありません。

日本も決してそのような精神が無いわけではなく、

今年の初めには児童養護施設にランドセルを匿名で送るなどの

タイガーマスク(伊達直人)現象が起こりました。

お金持ちはお金の使いみちで品性が知れますので、生きた使い方をして頂きたいものです。

お金持ちと言えばアラブやロシア、中国のお金持ちが、

インドや東南アジアの有名病院に医療ツーリズムに訪れ、

観光収入になっているとのことで、

日本も導入してはという行政サイドの提案もあるようです。

これについては医師会の反対意見を支持します。

自国に医療難民や医師不足(偏在?)という問題が起こっているのに、

自国民の医療をさておいて外国の金持ちに医療を提供することは理不尽でしょう。

私の友人の同年輩の医師たちは、

そろそろ子供が社会人や大学生になって巣立つ年齢になり、

奥さんと二人きりの時間は慣れないようです。

奥さん方は芸術やスポーツなど、けっこう趣味も持っておられることが多く、

ご主人にも休みの日は「家にいないで何かしなさいよ」と勧められます。

私が合唱を選択したことは家内には好評です。

理由は「道具が要らない」すなわち一番お金のかからない趣味だからだそうです。

※掲載内容は連載当時(2011年8月)の内容です。