村上医師の“ことば”はストレートだ。
ジャブやフック、ブローがない。
いきなりストレートで打ち込んでくる。
その言葉は街の中にある。
街を歩き、体で感じ、紡ぎだされる。
生活の場で繰り広げられる“ことば”だ。
今、その“ことば”を受け止めろ。
正面から受け止め、打ちにいけ。
そのパンチが医療を変えていく。
第5回「シェアをしろ!」
幸せに死んでいくことができる国を作る。
私たちができることはたくさんあります。
住みなれた地域で最期まで生活ができる。
それをささえる仕組みを地域の中で作っていきます。
キュアの機能を維持し、ケアのバランスを増やします。
治療に特化した専門性の高い病院は大都市に集中させます。
地域の病院は敷居を低くしケアの比重を高めます。
要となるのがキュアとケアのバランスが取れる看護師です。
地域で仕事を続けてきた、地域とつながりのある看護師です。
土地のことばと物語が理解できるからです。
地元のことも、自分のことも分かっている、この人が言うのなら…、
心を開いて相談ができます。
私は看護師に患者の自宅にまで行ってもらおうと考えています。
帰った時の姿が想像できないと、いいケアはできないと思うからです。
薬剤師や栄養士、PT、OT、ST、歯科衛生士などの専門職は指導役に徹すべきです。
地域に出向き、施設のケアワーカーに指導します。
ケアワーカーがリハビリや口腔ケア、栄養、薬剤の知識を持つのです。
多くの施設の水準が向上し、外部からの視点が入ることで質が高まります。
専門職が自分たちの手で行うのでは範囲も効果も限られます。
高齢化への対応はこれくらい思い切ったことをしないと間に合いません。
私たちは専門職を増やそうと考えがちです。
しかし、少数でも指導にインセンティブをつけることで知識はいきわたります。
高い識字率や教育の水準、倫理観を保持しているのが日本の国民です。
だからこそ、指導やコーチングが有効なのです。
既得権益にしがみつかず、自分の専門技術をシェアしましょう。
※次号に続きます。
※本原稿は2013年12月15日発行の「ツ・ナ・ガ・ル15号」からの掲載です。
村上智彦 Tomohiko Murakami
「何を言われても死ぬことはない」とあるお坊さんから言われ、「吹っ切れた」という村上医師。忙しい合間を縫って羽田空港のラウンジで取材に応じてくれました。“軍事オタク”を標榜するだけあって、駐機中の飛行機に目を輝かせています。次の世代に責任を持たなければならない、そのために行動している…、いつしか“オタク”から公の顔に変わっていました。
1961年北海道生まれ。医師。北海道薬科大学、金沢医科大学医学部卒業。自治医科大学地域医療学教室で地域包括ケアを学ぶ。NPO法人ささえる医療研究所理事長。2009年若月賞受賞。2017年5月11日 逝去。