07.「甘い誘惑」

ツ・ナ・ガ・ル ハーモニー♪吉田貞夫

欧米では、食事の最後に、デザートやチーズなどとともに、

甘口のワインを飲む習慣があります。

甘口ワインには、その作り方や風味によって、

いろいろな種類があるのをご存知でしょうか?

もちろん、お値段もいろいろです。

最も有名なものは、貴腐ワインです。

ブドウの果皮に、ボトリティス・シネレア菌というカビの一種が付着すると、

果皮にひび割れができ、果実が乾燥し、甘みが濃縮されるんです。

ちなみに、このボトリティス・シネレア菌、

ソムリエなら、誰でも正しく言えなければいけない必修項目なんですよ。

フランスのソーテルヌ、ドイツのアウスレーゼ、ハンガリーのトカイは、

世界三大貴腐ワインと呼ばれています。

濃厚な甘みとコクをそなえた貴腐ワインは、

フォアグラやチーズ、デザートなどとの相性は抜群です。

なかでも高級なものは、1本数万円以上とかなり高価です。

貴腐を生じるためには、適度な寒さ、霧の発生など、

極めて特殊な環境が必要で、大量生産が困難なのです。

しかも、貴腐ワインを作る際は、よい状態の果実を、

1粒1粒選り分けて、手摘みしている造り手が多いんです。

想像を超える手間がかかっているんですよ。

貴腐ワインのすばらしいところは、

ワインが驚くほど長持ちすることです。

以前、1920年に造られたシュタインベルガーのトロッケン・ベーレン・アウスレーゼというワインを、

ほんの一口だけいただいたことがあるのですが、

完璧なバランス、神々しい気品、えもいわれぬ芳香がしっかりと維持されていて、

圧倒された経験があります。

もはや不滅のワインといえるかも。

ドイツ、オーストリアやカナダなどの寒い地域では、

ブドウの実を凍らせることによって甘みを濃縮するアイスワインが造られています。

高野豆腐や干し柿と同じ原理?ですね。

コクでは貴腐ワインにはかないませんが、

エレガントな甘みが堪能できます。

カナダでは、ヴィダルという交配種のブドウを用いたアイスワインが有名です。

高価なワインの話はさておき、ここからが本番です!

実は、貴腐ワイン、アイスワインよりも、

もう少しお手頃な価格で飲めるデザートワインがあるんです!

酒精強化ワインといって、発酵中でまだ甘みの残っているワインに、

ブランデーなどの蒸留酒を加えて造られます。

ここから、世界各国の酒精強化ワイン、

その甘〜い甘〜い誘惑をいろいろご紹介しましょう。

ミュスカ・ドゥ・ボーム・ドゥ・ヴニーズ

ミュスカ・ドゥ・ボーム・ドゥ・ヴニーズ

フランス南部で造られるミュスカ・ドゥ・ボーム・ドゥ・ヴニーズは、

マスカットの1種であるミュスカが原料。

マスカットのさわやかな香りと、アプリコットのような濃厚な甘みと酸味。

キンカンの砂糖漬けのような風味がアクセントになっています。

かつてはローマ法王にも愛されたというこのワイン、

お値段は1本3千円ほど。お買い得です。

バニュルス

バニュルス

やはり南フランスで、赤ワインを造るグルナッシュというブドウなどから造られるバニュルスは、その濃厚な風味から、チョコレートとの相性が抜群。

ガトー・ショコラなどのデザートに合わせるとまさに格別です。

こちらも、1本2千円ほどから手に入るので、とってもお買い得です。

ペドロヒメネス

ペドロヒメネス

スペインで造られるシェリーも、実は、酒精強化ワインの1種です。

あの松田優作さんが愛したティオ・ペペのような辛口のものもありますが、

ペドロヒメネスというブドウから造られる甘口のシェリーは、

女性にもとても人気があります。

このタイプのシェリーは、熟したブドウを陰干しして、甘みを濃縮して造られるため、

まるでレーズンを食べているような、あるいは、糖蜜のような濃厚な風味が楽しめます。

そのまま飲んでもいいのですが、アイスクリームにトロ〜リとかけていただくと、

まさに絶品なんです。

そんな目くるめく官能の世界を味わわせてくれるこのワイン、

お値段は3千円前後。

アンビリーバボ〜ですよね。

もうひとつ、やや珍しい酒精強化ワインをご紹介しましょう。

フランス西部では、有名なブランデー、コニャックが造られていますが、

コニャックの原料となるブドウから造ったワインに、

贅沢にもコニャックを加えたものが、ピノー・デ・シャラントです。

フルーティーな甘みと、樽熟成の濃厚な風味が相まって、

オトナの時間を演出してくれるワイン。

お店でみかけることは稀ですが、お値段は1本3千円前後からと、

こちらもたいへんお買い得ですので、見かけたら即購入ですよ!

以上、今回は、気軽に楽しめる甘〜いワインの陶酔の世界をご紹介してみました。

『甘口のワインを究めずして、ワインを究めたと思うなかれ』です。

ぜひ味わってみてくださいね。

日頃の疲れを、甘〜いワインが優しく癒してくれるかもしれません。

緩和ケアを行う患者さんに、ときどき、ほんの1口ずつ飲んでいただくのも、

悪くないのでは…。
次回は、『風光明媚な音楽』について書いてみたいと思います。どうぞお楽しみに。

※掲載内容は連載当時(2012年5月)の内容です。