03.「研修医デビュー。患者さんとベテラン看護師の間で…」

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岡田晋吾 ままならぬ医者人生

さていろいろありましたが、

医師免許をもらっていよいよ医師として働くことになりました。

今ではすべての医師はスーパーローテートで

いくつかの科をローテーションすることが求められていますが、

私たちの時代は防衛医大だけが行っていました。

戦地で私は内科なので戦傷は診られませんとは言えませんから当然ですね。

私はまずは救急科を3ヶ月回ることにしました。

救急を回るとIVHや気管切開などこれからの医師人生に必要な技術を

早く手に入れることができると考えました。

救急の研修医は外科系の混合病棟も受け持つので

消化器外科や心臓血管外科の患者さんたちも受け持っていました。

今の大学は知らないのですが、

我々のころの研修医は点滴も採血もやらなければいけません。

医師は学生時代に採血の練習などしていないので、最初はとても苦労します。

でも大学の看護師さんたちは決して助けてくれません。

朝の6時に病棟に行って看護師さんが作ったリストと採血管を持って患者さんを回るわけです。

かわいそうなのは患者さんです。

何度も刺されます。

5月、6月に入院している患者さんたちは不幸としか言いようがないですね。

今では看護師さんや臨床検査技師さんたちが上手に採ってくれるんでしょうね。

さらに悪いことに採血指示は受け持ちの研修医が出します。

医師になりたてで不安ですからとにかく採血を毎日取っておけば上の先生に怒られないだろうし、

自分も安心とばかりたくさんの採血指示が出ます。

そうして自分たちの首を絞めていくわけです。

採血はいちおう当番制ですが、仲間がみんな毎日手伝いに来てくれます。

とにかく全員が下手ですからみんなで手分けしなければいけないわけです。

点滴も同じです。

結局毎日午前中みんなで採血、点滴をしている感じでした。

あのころクリニカルパスがあったら、あんなに採血の指示がなかっただろうなと思います。

そういう点では我々のパス普及活動は役に立っているかも知れませんね。

さて救急担当の研修医は重症の救急患者が入れば全員呼び出されます。

そしてみんな自分がやりたいことをしっかりアピールします。

気管挿管チューブを持つ者、IVHカテーテルを持つ者、胃管を持つ者…、

とにかく上の先生が指示してくれるまでやりたい物をもって待つわけです。

そのころの大学の救急には農薬中毒、特にパラコート中毒が毎週のように運ばれてきています。

今の所沢よりも畑が多く、きっと手に入りやすかったのでしょう。

たくさんの患者さんを見させてもらいましたが、

助かったのは一口舐めた患者さんだけでした。

恐ろしいと思ったものでした。

さて大学病院では研修医はびくびくしていました。

学生時代と違い、上の先生たちは研修医には厳しく指導をします。

患者さんには採血が下手だったりして

何回も刺すとあの医師は絶対嫌だとか言われます。

悔しいけど仕方がないですね。

私も5回も6回も左右の腕を刺されたりしたら切れます。

そして何よりも怖いのはベテラン看護師さんたち、

こいつら使えねえなーといった感じで我々を見ます。

指示が時間までに出ないともう受け付けてくれません。

受け付けてもらえないと上の先生に報告するとすぐに怒られます。

仕方がないので泣く泣く看護師さんに頭を下げてお願いしに行きます。

文句をさんざん言われながらやっと受け付けてもらうという感じでした。

こういう点でもパスは役立っているんじゃないかな?

それよりも今はチーム医療があたりまえだから、

こういう思いをすることがなくなったんでしょうね。

でも悪いことばかりではありません。

同じように虐げられている若い看護師さんたちとはすぐに仲良くなります。

お互い上司の悪口で美味しく仲良くお酒がのめるわけですから…。

これは今も変わらないでしょうね。

※掲載内容は連載当時(2012年9月)の内容です。