村上医師の“ことば”はストレートだ。
ジャブやフック、ブローがない。
いきなりストレートで打ち込んでくる。
その言葉は街の中にある。
街を歩き、体で感じ、紡ぎだされる。
生活の場で繰り広げられる“ことば”だ。
今、その“ことば”を受け止めろ。
正面から受け止め、打ちにいけ。
そのパンチが医療を変えていく。
第1回「誇りを持て!」
日本は稀(まれ)な国です。
世界一の質の高い医療が低コストで提供されています。
「えっ」と思いますか? 「そんなはずはない」と考えますか?
しかし、これは事実です。
日本は世界一の長寿国です。
医療費の国民総生産(GDP)に占める割合は8%前後で、米国の半分以下です。
世界で最も効率的な医療が行われている国、それが日本です。
医療者のあなたはこのことに気付いていますか?
日々の仕事の中で実感する事がありますか?
私たちは世界一の医療現場で働いている…、
「本当なのだろうか」という声が聞こえてくるようです。
多くの国民も同じように感じています。
恵まれた医療を受けているにもかかわらず、
医療に多くの要望を抱いています。
病院に行けば何とかなる、医者が何とかするはずだ…、
思い込みは期待となり、こんなはずではという裏切りを招きます。
マスコミのアンテナは敏感です。
“裏切り”が “問題”にすり替えられ、世論が形成されます。
日本の医療は国民の要望に応えていない。
医療崩壊という構図の完成です。
本当に日本の医療はダメでしょうか?
日本という国の外から日本の医療を眺めてください。
国民皆保険制度は、戦後の日本を短期間で健康社会へと変貌させました。
国民のだれもが平等に公平な医療を受けることができる。
日本の医療制度は世界的にも“成功モデル”と位置づけられています。
世界のCT機器の半数近くが日本にあります。
これほど手軽に内視鏡や画像の検査が受けられるのは日本だけです。
日本のケアの水準は先進国のフィンランドから視察が訪れるレベルです。
専門性の高さ、技術の水準、インフラの充実度、
日本の医療は世界でも“稀”です。
私たちはそうした医療を作り上げてきました。
もっとそのことに誇りを持つべきです。
恵まれていることに感謝すべきです。
自虐的と感じるのは私だけでしょうか。
なんで、よかった、ハッピーだと思わないのでしょうか。
これだけいい医療を提供していても、
国民の医療満足度は先進国でも最低のレベルです。
それはなぜなのか?
理由はいくつもあるでしょう。
しかし、ひとつは自分たちの姿を客観的に捉える、
そうした姿勢の欠如だと思います。
水道の蛇口をひねればいつでも安全な水が飲める。
医療はそんな風に捉えられるようになってしまったのかもしれません。
しかし、それは稀なのです。
※次号に続きます。
※本原稿は2013年12月15日発行の「ツ・ナ・ガ・ル15号」からの掲載です。
村上智彦 Tomohiko Murakami
「何を言われても死ぬことはない」とあるお坊さんから言われ、「吹っ切れた」という村上医師。忙しい合間を縫って羽田空港のラウンジで取材に応じてくれました。“軍事オタク”を標榜するだけあって、駐機中の飛行機に目を輝かせています。次の世代に責任を持たなければならない、そのために行動している…、いつしか“オタク”から公の顔に変わっていました。
1961年北海道生まれ。医師。北海道薬科大学、金沢医科大学医学部卒業。自治医科大学地域医療学教室で地域包括ケアを学ぶ。NPO法人ささえる医療研究所理事長。2009年若月賞受賞。2017年5月11日 逝去。