06.「ドキドキの初当直と入籍」

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岡田晋吾 ままならぬ医者人生

さてドキドキの初めての当直です。

まだ医者になって5か月目です。

経験したのは救急部と外科だけです。

しかも上の先生に言われたことをやっているだけです。

当直は土曜日のお昼から翌日の朝まででした。

翌日の朝には5年先輩の先生が交代に来てくれると教えてもらいました。

何とか一晩乗り切ればいいわけです。

まず病院の受付に行って「今晩の当直に来た岡田です」と挨拶をしました。

すると看護師さんが当直室に案内してくれました。

ここが当直室か~、ベッドもきれいだしテレビもあります。

看護師さんは「患者さんが来られたら電話しますのでゆっくりしていてください」と

笑顔で言ってくれました。

ゆっくりできればいいなと思いながら見送りました。

しかしその「ゆっくりしてください」と言う言葉は、

単なる社交辞令に過ぎないことをすぐに気づかされることになります。

すぐに電話、「6歳の男の子、ぜんそくのようです」と。

喘息? 小児? どのような治療だっけ? 薬は? とすぐに混乱。

でもそのような医者のためなのか、

当直マニュアルや今日の治療指針などの本が机の上に…。

さっそく小児ぜんそくの項目をじっくり読んでおもむろに外来へ、

患者さんもお母さんも私を見て少しうれしそうな顔になります。

型通りの診察をして「ぜんそくですね、吸入をしてお薬を飲めば楽になりますよ」と、

ベテラン小児科医のように説明。

すると看護師さんから「先生、吸入はいつものセットでいいですか?」と。

いつもの? セット? そうか、そういう便利なものが用意されているんだね。

「ああ、いつものセットといつものお薬で」。

こんな感じで無事、当直一人目の患者さんの診察が終わりました。
それからさまざまな患者さんが来られます。

乳児から高齢者まで、胸が苦しい人から怪我をした人までです。

昔の中小病院は救急患者さんを断らないのが原則でしたから、

すべての患者さんを見なければいけないわけです。

でもうまくシステムができていて、

こういう病院の外来の看護師さんはベテランで

本当に救急患者さんのことを知っています。

だから当直室に電話かけてくるときには「狭心症疑いです」とか、

「虫垂炎です」と言ったように必ず診断をつけて知らせてくれます。

その診断を聞いて本を見て外来に向かうわけです。

きっと看護師さんも本を見ているだろうなと思っていたんでしょうね。

しかも外来で私が困っていると先輩医師のように、

いやそれ以上にやさしく何でも指導してくれます。

また放射線技師の方もレントゲンを見て診断をつけて返してくれます。

そして薬剤はさまざまな疾患用のセット処方が作ってあって、

それを書くだけでいいようになっていました。

少々出来の悪い医者でも

普通の疾患ならなんとか間違わずに診られるようになっていたんですね。

しかも今の時代と違って患者さんやご家族もとてもやさしく、

夜の時間に診てもらったことにとても感謝して帰られます。

そういう姿を見て医者になってよかったなと思ったものでした。

ただ重症患者さんが来たらどうしようと不安を持ちながら

夜を過ごすのは良い気持ちではありません。

早く朝になって先輩が来ないかなと

あまり眠れないまま一晩過ごしたものでした。

そして先輩の姿を見た時にはとっても安心しました。

何ごともなく生まれて初めての当直が終わり、

生まれて初めての当直料をいただいて帰りました。

あ、そう言えば当直の前に今の嫁さんと入籍しました。

大学4年から同棲をしていて、

向こうが看護師に先になっていたのでヒモのような感じですね。

無事、国家試験に合格したのを機に入籍したわけです。

でも休みも取れないので結婚式は後回しにして

新婚旅行は新高輪プリンス2泊3日の旅でした。

忙しい毎日でしたが、

新しいことを覚えたりで楽しく充実していたと思います。

さあ次には何が起こるのでしょうか?

※掲載内容は連載当時(2013年6月)の内容です。