此の世のなごり。
夜もなごり。
死にに行く身をたとふれば。
あだしが原の道の霜。
一足づつに消えて行く。
夢の夢こそ哀れなれ。
曽根崎心中の徳兵衛とお初の心中への道行が、哀調の三味線と義太夫節で語られます。
二人が何故心中する羽目になるか?
手代の徳兵衛と遊女のお初は恋仲ですが、
徳兵衛の主人は徳兵衛の継母に金をやって、
妻の姪と徳兵衛を結婚させて店を継がそうとします。
徳兵衛は継母から金を取り戻して主人に返して縁談を破談にしようとしましたが、
この金を親友と思っていた男に頼まれて貸してしまいます。
ところが、男は借りた覚えは無いと言い、
公衆の面前で徳兵衛を詐欺師呼ばわりし、悪い噂が立ってしまいます。
金も面目も失い、お初と添い遂げることもできなくなった悲嘆にくれる徳兵衛に、
お初が一緒に死んであの世で一緒になりましょうと持ちかけ、
二人は決心してこの道行となるのです。
文楽への補助金をカットした橋下大阪市長の言うように、
確かにストーリーは単純です。
ところが、こんな単純な話でも、
そして血の通っていない人形の仕草や動きだけで、
つい哀れになって泣かされてしまうのですから、
さすが人間国宝、そしてユネスコが認定した世界無形遺産です。
補助金カットの件に関しては、確かに技芸員の給料は安く、
歌舞伎のように儲かってもいないので、御気の毒ではあります。
橋下市長は大阪フィルハーモニーの補助金も同じくカットしました。
これらの措置に対し、文化芸術を理解しない、
面白くないなどと個人の価値観で判断するな、
天下り先だからというのなら天下りだけやめれば良いではないかなどとの批判も多く、
他の政策では人気のある市長ですが、なかなか世論は厳しいようです。
ただ、市長の肩を持つわけではありませんが、
歌舞伎や落語の業界も経営難の時期がありましたが、
補助金はもらわずお客さんを増やす努力をして人気を回復しました。
自治体から補助金をもらっていない楽団もたくさんあります。
病院に例えると歌舞伎役者や文楽の技芸員は、医師、看護師、薬剤師などの医療職です。
技術を磨くこと、すなわち修業をすることで顧客を呼べる技量になります。
一方、経営に関しては経営職のマネジメントにかかっています。
人間国宝のような人材を有していながら顧客を呼べないのは、
マネジメントが悪いと言われて反論できないのではないでしょうか?
そしてその経営職が市や府の職員の天下りなのです。
たまたまその職員が文楽に造詣が深く、
どうすれば観客が増えるかということに精通していれば別ですが、
なかなかそういう人材は役所には少ないのではないかと思います。
10月発刊の「週刊ダイヤモンド」の特集「頼れる病院、消える病院」を読みましたが、
同じような立地条件の自治体病院でも補助金をもらわずに黒字の病院もあれば、
補助金をたくさんもらっても赤字の病院もあります。
誰も赤字になっても税金で補てんしてもらえるから潰れないと考えていることは無いでしょう。
しかし橋下市長に言わせれば、民間病院は補助金をもらっていないのだから、
赤字の自治体病院は経営努力が足りないと言われても仕方ないということになってしまいます。
補助金で守らねばならない事業もありますが、
補助金に甘えてしまうこともあるのは事実でしょう。
もちろん民間もバブル期に投資に走って経営難になった企業もあり、
お金を持った時の使い途で企業の品格が問われます。
メディチ家はボッティチェリ、ダヴィンチ、ミケランジェロなどの芸術家のパトロンとなり、
ルネサンスの文化を育てました。
官より民の方が芸術文化の育成には向いているように思えます。
民間の方が顧客を満足させる感覚には優れているでしょう。
国立文楽劇場は当院から近鉄電車で約20分の日本橋にあります。
今年の「曽根崎心中」は市長の発言が宣伝にもなったのか?
久しぶりに満員御礼でした。
劇場の近所には、有名な電気店街と黒門市場、
そして近松も祀られている生玉神社があり、
そして、何故か神社の周りがラブホテル街です。
※掲載内容は連載当時(2012年12月)の内容です。