04.「退院支援から、在宅療養支援へ 地域でその人らしく暮らすために何が必要だろう ~地域居住の継続(aging in place)~」

おうちへ帰ろう 宇都宮宏子

病院で退院支援に取り組み始めると

「なんで入院したん? どこを目指しているの?」と、

医師に尋ねる場面が多いことに気づく。

退院調整看護師やMSWはそこに問題意識を持ってシステム改革へと行動してほしい。

病床稼働率を維持すること、

入院してナンボという報酬評価では「ひとまず入院」と決まる事も多い。

ここ数年は入院決定時に「○日ぐらいの入院だからね」と

期間が説明される事も多くはなったが、

患者は「入院が適切なのか、通院や在宅という方法はないのか」と、

提供される医療を選択できているだろうか?
入院環境は非日常だ。

治療優先のタイムスケジュール、環境も危険がいっぱいだ。

そして何より患者が依存的になる、自己決定力が低下する。

病気や老いで起きる変化を予防し、

看護や介護、在宅医療という方法でサポートする事で、

在宅療養を安定させる備えをしていく。

提供する医療を入院医療が効果的なのか、

外来や在宅医療の方がQOLを低下させないのではないかを患者と共に考え、

選択肢を提示してほしい。

手術のためのやむを得ない入院も、入院の目的を明確に伝え、

短期間で自宅へ戻れる事を患者自身に伝えて欲しい。

訪問看護時代に多くの事を教えてくれた“はなさん”という80代後半の女性がいた。

介護保険制度の始まる前、通所介護(特養併設)の相談員から

「便が出ず、サブイレウスになって通院したりしている。

飲み込みの問題も出てきた、長く家にいられるように訪問看護で支えてほしい」

と相談があった。

通所介護の相談員がケースマネジメントをしていた。

20年以上前だが、京都山科区で福祉・医療・保健の関係者が毎月集まり、

情報交換や事例検討をする実務者会議をもっていた。

お互いの強みや弱みを知り、地域で支えようとの思いで繋がっていた。

はなさんは重度のアルツハイマー型認知症だ。

「はなさ~ん、宇都宮です! おはよ」ってご挨拶すると、

ますます笑顔になって訪問看護が始まる。

娘さんが時間を見てトイレに連れていき失敗も少なかった。

パンツ式おむつだけどオシャレな服に着替えて過ごしていた。

健康チェックや1週間の様子をうかがい、

娘さんの療養相談にのり、そのあと1時間一緒に散歩(徘徊といわれていたけど…)。

近所の子供たちも「はなばあちゃ~ん」って声をかけて集まってくる。

昔から地域で暮らすおばあちゃんが老いて、少しわからなくなっても、

子供達にとっては今までと一緒の風景なんだ。

ある日、娘さんから携帯に電話が入った。

「お母ちゃん、入院せなあかんって」と、少し泣きそうな声。

自宅でしりもちをついて恥骨骨折という診断。

緊急で受診した整形外科の医師は「1か月ほど入院しましょう」と言った。

「手術できるわけではないし、宇都宮さんどう思う?

大きい声出すし、動こうとするやろうし、看護師さんに迷惑かけるよね。

でもおむつ交換とか、看護師さんだったら痛くないようにしてくれるかな。

私、寝たままのおむつ交換なんてしたことないし」。
医師が入院と言っているのだし、何を言いたいのだろうと思った。

確かに入院したらはなさんがどうなるかは容易に予想できた。

何が起きているかわからず、混乱して大きい声を出したり、

帰ろうと思って動こうとしたりする、

病棟看護師はやむを得ず、抑制、鎮静させるしかない。

2、3週間の入院で歩けなくなる可能性も高い。

看護師が痛くないおむつ交換ができるかもかなり疑問だったし…(すみません)。

私は、「家で看る? 毎日訪問するよ」と娘さんに答えた。

整形外科の医師には電話で、入院する事がQOLを落とす可能性が高いことを伝えた。

毎日の訪問で痛みを訴えるような様子に注意し、報告する事も約束した。

当時は週3回の訪問看護しか認められていない時代だったけど、

毎朝、はなさん家に出勤して、モーニングケアとして着替え、

おむつ交換、清拭を娘さんと一緒に行った。

2週目頃、「お母ちゃん、朝起きたら座ってはってん」と。

はなさんはにこにこしてベッド端座位になっている。

そして立位、移乗ができるようになり、4週間後に受診すると骨折は治癒していた。

はなさんはいつも通りの生活に戻った。

みんなが待っている通所介護も再開、もちろん1時間の徘徊散歩もね。

医療が生活や人生を遮断する。

病院という非日常の環境で生命維持のために提供されてきた医療が、

結果として生活の場に帰られなくなる高齢者を生み出している現実を私たちは多く見ている。

退院調整がベッドコントロールのために、長期入院患者の収容先探しになっていないか。

地域居住の継続…、地域でその人らしく暮らす事を実現するために何が必要かを考える。

退院支援から外来での在宅療養支援へと発想を転換していく。

はなさんが教えてくれた

「暮らしの場だからこそ発揮できる本人の持つ力を信じること」

が私の真ん中にある。

※掲載内容は連載当時(2014年6月)の内容です。