私はメディカル・ウォーキングを通して
高齢者のサルコペニア予防を呼びかけています。
平均寿命と健康寿命との間には、
日本人男性で9年、女性で12年のギャップが有ります。
男女ともに約10年が医療や介護のお世話にならなければならない期間であり
「人生ラスト10年問題」と名づけて問題提起をしています。
これは超高齢社会を迎えた日本のビッグ・イシューとなることでしょう。
この期間には3つの節目があると見ています。
- 歩けなくなる時
- 食べられなくなる時
- 認知できなくなる時
1と2に関して、栄養と運動により筋肉を減らさないことが大切である
という確かなエビデンスがあります。
3に関しては、いくつかのエビデンスがありますが、
正直、自分でも今ひとつ納得感が得られていませんでした。
さて、BDNFをご存知でしょうか?
Brain-derived neurotrophic factorの略であり、
日本語では脳由来神経栄養因子と表記されます。
神経細胞の維持に必須のタンパク質ですが、
運動によって増加することが分かっています。
その代表的な効果を挙げてみます。
- 記憶、学習の促進
- 情動のコントロール:うつ病予防
- 神経細胞死の阻止:認知症予防
- 食欲抑制
以上を平たく表現すると、BDNFは脳のアンチエイジング物質
と言えるのではないかと思います。
4の食欲抑制に関しては、過食、摂食行動異常のあるマウスにBDNFを投与すると、
摂食行動異常が改善し食欲が抑制されることが分かっています。
私は特に、3の神経細胞死の阻止効果に興味を持っています。
アルツハイマー病は、アミロイドβによる神経細胞の死滅が原因ですが、
BDNFの投与によって神経細胞死が抑制されることが分かってきました。
運動によってBDNFが増加することで
認知症の予防につながると予想されるのです。
すなわち、人生ラスト10年の3つ目の節目の認知症に関して
運動による予防効果が期待できるのです。
BDNFの登場によって、運動が脳にも良いことが十分に納得できました。
運動によって成長ホルモンが増加する点は、皆さんご存知だと思います。
成長ホルモンには身体のアンチエイジング効果があります。
すなわち、成長ホルモンは身体のアンチエイジング物質と私は考えています。
以下、効果を列記します。
- 疲労回復:細胞修復
- NK細胞の増加:免疫力向上
- メラトニン分泌:良眠
- 脂肪分解:肥満抑制
これらの成長ホルモンの効果を知る時、
疲れている時ほど運動したほうが良いことが分かります。
以上をまとめると、
運動は、成長ホルモンの増加によって身体のアンチエイジング効果を
BDNFによって脳のアンチエイジング効果をもたらすのです。
高齢であればあるほど、運動が大切なのです。
栄養と運動の両面を重視したメディカル・ウォーキングは
超高齢社会において、今後、益々、重要性が高まることでしょう。