ハーバード大学生物人類学教授 リチャード・ランガム著
『火の賜物』が非常に面白いです。
完全ネタバレですが、「私たち現生人類ホモ・サピエンスの出現をうながしたのは、火の使用と料理の発明だった」が本書の主張です。
これだけでは、意味不明かもしれませんので
私の人類学に関する知識を加えて解説していきます。
最古の人類はアウストラロピテクス(呼称ルーシー)だと思っている方が多いでしょう。
しかし、最近の研究結果では、
アルディピクス・ラミダス(呼称アルディ)が先行していたことが確認されています。
よって、下図の440万年の人類はラミダスと表記しておきます。
さて、初期の人類であるラミダスと200万年前頃から現れたホモ・ハビリスやホモ・エレクトゥスとを比べてみましょう。
両者にはかなりの違いがあったことが分かっています。
後者のホモ・ハビリスやホモ・エレクトゥスは、
ホモ・サピエンスにかなり近い存在です。
250万年前からの脳容積の拡大傾向は
ホモ・ハビリス、ホモ・エレクトゥスに始まったと言われます。
直立二足歩行を始めたばかりの700万年前の人類から
ラミダス誕生に至るにも飛躍がありましたが、
ラミダスからホモ・ハビリスやホモ・エレクトゥスへの進化にも飛躍がありました。
その進化を促したものは一体何であったのでしょう?
それは、“肉食”であったという説があります。
今回は、“肉食”の効用は省略させていただきますが、
忘れてはならない重要な点は、その時点では生食でしかなかったことです。
人類が火を獲得したのは、40~50万年前と予測されています。
今の所、正確な時期は判明していません。
今回の主テーマである料理は、もちろん火を手にしてからになります。
人類史の中で1つ目の飛躍がラミダス誕生を促し
2つ目がホモ・エレクトゥスを誕生させました。
3つ目の飛躍として、火の使用と料理の発明があり、
それが、ホモ・サピエンスへの進化に繋がったのではないかと思われるのです。
生のものを食べるチンパンジーは1日6時間を咀嚼に費やし、
それだけの長時間、噛んでいても
消化に時間がかかるために食後の休息が必要とされます。
牛や馬でも四六時中、草を喰んでいるのは、
生で食べることの消化、吸収の効率の悪さがあるからなのでしょう。
昨今、健康を意識する人々の間で、生食思考(志向)があります。
なるべく調理せずに、生のまま食するスタイルです。
ここで、ある生食主義者に関する実験結果を紹介しましょう。
栄養学者のコリンナ・ケプニックらがドイツのギーセンで行ったアンケート調査で
食物の70%から100%を生で食べる513人を対象としたものです。
料理した食物から生の食物に移行したときの平均的な体重の減少は
女性が12kg、男性が9.9kgでした。
これは、料理した食物は生のものより消化しやすいことを示しています。
事実、雌牛は生の穀物ではなく調理したものを食べると、
より脂肪分の多い牛乳をより多く出します。
生食主義者の妊娠率は一般に比べ低いそうです。
人間は、生食だけでは健康に生きていけない生命体であることも
様々なデータで裏付けされています。
健康のための生食志向なのでしょうが、
身体には負荷を掛けていることになります。
ただ、過栄養が起きてしまう現代の食生活においては、
別の意味での健康志向と言えるのかもしれません。
結局、肉であれ、野菜であれ、卵であれ、
生のものを消化するのには非常にエネルギーがかかります。
しかし、火を用い料理すれば、
その負担が大幅に削減できるだけでなく、
含まれる栄養素の利用効率も格段に上がるのです。
さらに、美味しくいただくことも出来ます。
それによって、ヒトの消化器官はコンパクトサイズで済むようになりました。
消化に必要なエネルギーは少なくて済みますので、
余ったエネルギーは脳の発達に振り向けられるようになり、
脳の活動に大量のエネルギーを利用することができるようになったのです。
ホモ・サピエンスは進化したから料理を編み出したのではなく、
火の使用と料理の発明によって更なる進化を遂げ、今日の進歩を手にしたのです。
大型の草食動物が発酵のための巨大なタンクを内蔵しなければならないにもかかわらず、
ホモ・サピエンスは簡易な消化器システムで生命維持が可能になったのです。
料理は消化プロセスを外部化する技術であり、
現生人類の繁栄を支える発明となったのです。
まさに外的足場*です。
*外的足場についてはこちらをどうぞ
さらに、詳しく知りたい方はこちらをどうぞ。
2018年8月15日