110. 書評『賢い患者』

社会医療人の星 書評『賢い患者』

6月20日にCOML理事長の山口育子さんの著作が岩波書店から出版されました。

大変、読み応えのある書でした。

それもそのはず、辻本好子COML初代理事長との20年の二人三脚の歩みと

その志を引き継いだ数年の歩みが

ある意味、赤裸々に綴られています。

COMLとは、「ささえあい医療人権センターCOML(コムル)」の略で

「患者の主体的な医療参加」「患者と医療者のコミュニケーションの構築」を促進している

認定NPO法人です。

気負いのない凛とした文章に

普段の卓越した山口さんの講演の語り口が重なります。

思い返せば、数年前に岩手で開催された日本クリニカルパス学会の特別講演で

山口さんの講演を私は初めて拝聴しました。

私は当時からプレゼンのイベントを主催していましたから

様々な講演やプレゼンのスタイルを見聞きしています。

その眼、耳で感じたのは、

私利私欲がなく、無理やり人を説得しようという押し付けの一切無い

斬新なスタイルでした。

大変驚きました。そして、本物だと直感しました。

その日は、講演終了後、山口さんを出待ちして、

即座にMEDプレゼンのご登壇を依頼しました。

それはこんなカタチで実現しました。

本書は賢い患者になるために、市民の方々に向けて書かれたものなのでしょうが、

医療従事者こそ熟読すべきです。

著者が導こうとする賢い患者像は、

あらゆる医療資源を賢く利用する存在に留まりません。

その存在によって、医療者をも良き方向に導き、

医療制度そのものも常なる改善に向かわせるもののように予感します。

患者と医療者は、相互に権利を主張し、「競合」する関係にはありません。

互いに支え合い、「補完」し会う関係であることを

COMLの活動の歴史が私たちに教えてくれます。

医療者は、情報の非対称性の優位者と自身を考え、

一方的に患者を指導をする立場と勘違いしてしまいます。

それではいけないと教えられました。

「賢い患者」の存在を信じ、

その存在から、あるべき医療の姿を問い続けるべきだと思います。

私を含めた医療者は、患者さんの急変時に治療だけに集中しがちですが、

駆けつけたご家族に声がけする配慮は絶対にすべきです。

私も、急変後の検査データが出揃ってから初めて、

ご家族に説明するスタイルを取っていましたから、反省しきりです。

まずは駆けつけた家族に声をかけて、「何が起きたかを説明したいが、思いがけない急変で、いまはまだ説明できるだけの情報がない」ことを伝えるという発送の転換が必要だと思います(p.50)。

なるほど、その通りです。

今後は、私もそうします。

COMLの活動の中に、

基礎コースとしての「医療をささえる市民養成講座」

アドバンスコースとしての「医療関係会議の一般委員養成講座」があります。

2014年12月の「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」において

一般市民の委員が出席しないと、その倫理委員会は成立要件を満たさないということになりました。

2018年4月施行の臨床研究法でも、一般市民の参加がマストになりました。

一般市民の声が医療に具体的に反映される時代がやってきたのです。

わがチーム医療フォーラムのミッションも

「参加する医療で社会を良くする」ですから、

いよいよ市民参加型医療が実現するための基盤が構築されたと言えます。

このような背景から、私は2018年度を「参加する医療元年」と勝手に命名しています。

これまでの過程にCOMLの貢献があったことは誰もが認めるところでしょう。

初代理事長の辻本好子さんが厳しい余命宣告を受けた日の深夜に

受け入れ難い悲しみを共有した看護師さんとのエピソードが紹介されています。

その方は30歳過ぎでしたが1年目の看護師さんだったそうです。

かの辻本さんが、何故、その新米の看護師さんだけに抑えきれない心情を吐露したのか?

その理由を知った時、

私は、医療者と患者との深い邂逅とはこういうものだと感じました。

こうありたいと思いました。

下図は本書を最後まで読まれた方にはお分かりですね。

どのような集団であれ、

この正規分布曲線の中央値をプラスの方向にずらしていくことが大切です。

COMLの活動は、医療を取り巻くあらゆる集団において

それらの中央値をプラスに向かわせるための弛まぬ努力であったと気づきました。

この真っ当な歩みに、カミソリの鋭さではなく、

社会を根本から変えるナタの力強さを感じます。

世に無くてはならない団体だと心底思いました。

人の名前は親が付けたに違いありませんが、

天がその人の親をして

その名に使命を託したとしか思えないような人物に出会うことがあります。

本書を通して、

山口さんが辻本さんという先駆的な人物と出会い

様々な体験を共有する中で訓練され

やがて志を引き継がれたということがよく理解できました。

その上で思うことは、

山口さんの名には

“患者を育み、医療人を育てる” という天命が託されているのではないか

ということです。