この春、京都の仲間達と「京都の町であなたらしく生きるを支える
『京都ACP(アドバンス・ケア・プランニング)看護研究会』を立ち上げた。
訪問看護師、介護施設の看護師、退院調整看護師、病院の看護師(認定、専門含む)、
大学教員がメンバーだ。
毎月、ひとりの事例を振り返り、時間軸で、その人の人生において意思決定支援の分岐点は
どこだったかを考え、看護師としての支援のあり方を共有する。
在宅、病院、介護施設から事例を交互に提供してもらい、議論を重ねている。
事例検討では、ホワイトボードに、本人に関わる人、家族、支える人達を、
提供者の話を聴き、関係図に書き出す。
横線を引き、時間軸で振り返る。
病院から在宅への移行支援がキーになる場合は、入院を真ん中に書き、
入院前までの暮らしぶりや、外来通院の状況を確認する。
いろいろな事が見えてくる。
医療と介護の連携が必要な時期、
早い時期から訪問看護師や外来看護師、介護施設の看護師の関わりがあると、
暮らし方の工夫やこれからを考えることで、
悪化予防やその人なりの心構えが出来ていくプロセスが見える。
前を向く強い患者の姿や看取りができる家族へと変化していく。
研究会のメンバーは、匠の技ができる達人たち。
彼女たちが当たり前のようにやっている事を可視化する。
看護師だけでなく、ケアマネジャー、そして住民にも、
こんな時、こういうことを誰と相談するかを、知ってもらいたい。
病院が場になりやすいがん患者のACPとは違い、
高齢者の場合は、やはり本人にとって住み慣れた自宅や介護施設が
ACPの場になる事が大事だと思う。
診療所や外来看護師、訪問看護師、施設看護師が、
病気や老いの変化と上手に付き合って、
どう生きるか、食べる、排泄、入浴、眠るという当たり前の生活の事から、
最期の時に受けたい医療、受けたくない医療、
どんなケアを受け、どう生ききるかを一緒に考えていく。
看護師の支援そのものがACPだと考えている。
ACPは、早い時期のDNARではない。
どう生きるか、どう生ききるか、
アドバンス・ライフ・プランニングだと、事例を振り返りながら感じる。
退院支援は、人生の再構築を支援すること。
ベッドを空けること、長期入院患者の収容先を探すことではない。
患者が、病気や障害を持ちながら、
これからどう生きるかを一緒に考え、構築していく支援である。
本人や家族だけで決める事ができる場合もある。
しかしこれから自分にどんなことが起きるのか、
その時、医療やケア、リハビリ、様々な専門家のサポートを受け、
自分でできる事は自立を目指し、
自分で決めていく事(自律)が、人として生きる尊厳だと考えている。
「私はどんなふうに死んでいくのかな、誰も教えてくれないんだ」
と言われたがん患者さんがいた。
神経難病の診断が出た患者と家族に、
医師から治癒はできないという辛い説明がされた。
「これからどうしたらいいですか」という質問に、
医師からは、内服の提示と定期的な病院への通院の説明がされた。
私は、病棟看護師や担当の理学療法士からの情報を元に、
家での生活について、今の状況を聞きながら、
病気から来る機能障害や神経障害に対してリハビリの工夫や自宅環境の工夫、
そして今までの生活をなるべく長く続けるための方法を
患者・家族に問いかけながら一緒に組み立てていった。
医師からの適時、適切な疾患レビュー、
そして看護師からの療養支援が提供されることで、
患者が病気を自分の事として受け止め、
折り合いをつけながら、生活者としての強さを取り戻していくと考えている。
地域包括ケアシステムの目指す社会は地域での生活継続、
いわゆる「aging in place」 (地域居住の継続)、
治らない病気や障害を抱えても、老いによる変化があっても、
住み慣れた地域で最期まで暮らし続けることができる社会である。
人生のある時期だけを切り取っての事例検討ではなく、
その人の長い人生を通して、どんな支援ができていたか、
振り返る事が大切だ。
地域全体の研修会では、
病院医療者と地域の多職種との研修で、
このような事例検討会を企画し、
地域に点在している強みを知り、ネットワークができていく。
ぜひ、事例検討を時間軸で考えてみませんか?
※掲載内容は連載当時(2015年2月)の内容です。