昨年に十八代目中村勘三郎さんが亡くなりました。
勘三郎さんが罹った食道がんは膵臓がんと並んで予後も「出来どころ」も悪いがんです。
食道自体はチクワのような単純な形の臓器ですが、
前に気管や心臓、両側に肺、左に大動脈と危険な場所に位置しています。
また頚部、胸部、腹部に細長くまたがっていますから、
胸部の食道がんでも頚部や腹部のリンパ節に転移します。
手術ではこれらの危険な部位を剥離して、広範囲のリンパ節を取り除きます。
ですからたとえ手術がうまくいっても、術後肺炎などが命取りになることがあります。
食道はその名の通り食べ物の通り道ですから、がんが大きくなると食べられなくなります。
昔は食道がんの患者さんは食べられなくなってから受診する人も多かったので、
手術前から栄養不良の方もたくさんおられました。
栄養不良状態では回復力や免疫力が低下していますから、
そのまま手術をするとさらにリスクが高まります。
そこで栄養状態をなんとか改善しようとして生まれたのが、
中心静脈栄養法や経腸栄養法です。
というわけで、静脈経腸栄養の分野は外科医、
とくに食道外科を専門とする医師が多かったのです。
本号が配布される予定の日本静脈経腸栄養学会も、
当初は消化器外科医ばかりで、しかも全部シンポジウム形式で、
抄録は図表入りで論文並みの文字数というオソロシイ研究会でした。
昔の外科医はとくに肉食系?が多かったので会場が男くさく、
多職種が集まり大規模になった現在の状況とは隔世の感があります。
さて、前号で文楽の人気演目の「曽根崎心中」をとりあげましたが、
「忠臣蔵」も必ず客の入る大人気の演目です。
大阪の国立文楽劇場も橋下市長に「もっと客の入る演目を」と発破をかけられたせいか、
昨年は夏の「曽根崎心中」に続いて、秋は「仮名手本忠臣蔵」を上演しました。
さすがは忠臣蔵で入場者数が前年比60%増になったそうです。
NHKの大河ドラマ「平清盛」は最低視聴率だったので、
また巻き返しに来年は忠臣蔵にすべきかもしれません。
勘三郎(当時は勘九郎)さんは、
1999年の大河ドラマ「元禄繚乱」(原作:舟橋聖一「新・忠臣蔵」より)で
主役の大石内蔵助を演じました。
彼は舞台・ドラマの忠臣蔵で、大石主税、浅野内匠頭も演じていますので
「あとは吉良上野介をやれば、忠臣蔵グランドスラムですね」と言っていたそうです。
しかし、客観的に見て意地悪爺さんの役は似合わないです。
仇討を忘れてしまったかのように、祇園の一力茶屋で遊び呆けるふりをする内蔵助など、
楽しそうにしている姿の方がお似合いです。
このドラマ、共演の女優陣が、大竹しのぶ、宮沢りえ、南果歩、鈴木保奈美、宮崎あおい、安達祐美、奥菜恵、高岡早紀、純名里沙、涼風真世、篠原涼子、中山エミリ、山田まりや、杉本彩、小沢真珠、夏木マリ、小松みゆき…(綺麗なだけじゃない面々)ですから、こんな仕事場、男なら楽しくないはずがないと思うのは私だけではないでしょう。
文楽の「祇園一力茶屋の段」は、内蔵助(由良助)の本心を探りに来る
スパイとの微妙な駆け引き、自刃した藩士の元恋人で今は廓に身を置くお軽と示し合わせて、
床下に潜んだスパイを刺し殺すシーンなど、場面も華やかで見所の多い人気の段です。
二階で涼んでいるお軽が段梯子から降りるのを、内蔵助が下から見上げながら、
梯子を支えて手伝ってやるシーンがありまして、
この会話のやりとりがなかなか艶っぽいので紹介します。
「道理で、船玉様が見える」
「エエ覗かんすないな」
「洞庭の秋の月様を、拝み奉るぢゃ」
「イヤモ、そんなら降りゃせぬぞえ」
「降りざ降ろしてやろ」
「アレまだ悪い事を、アレアレ」
「喧しい、生娘か何ぞの様に、逆縁ながら」
と後より、ぢっと抱きしめ、抱き降ろし。
※掲載内容は連載当時(2013年2月)の内容です。