最近、奮発して、すごく良く切れる包丁を包丁鍛冶店で買った。
これから頭と尿のキレは悪くなる一方だろうから、
包丁とビールぐらいはキレがあってほしい。
ご存知のように、メスと同じで包丁は良く切れる方が危なくない。
試しにニンニクをスライスしてみた。
実に気持ちよくスタスタと切れる。
次に玉葱を微塵切りにする。
良く切れるので汁が出ない、ゆえに涙も出ない。
調子に乗って大きなのを3個も微塵切りにした。
これをやると、翌日の診察中も手が玉葱臭い。
ついでに人参を適当に切るが、人参ぐらいの硬さがあると、
これまたサクサクと新しい包丁の切れ味が試せて楽しい。
バターを思い切りよくサイコロキャラメル(知っているかな?)ほど、
フライパンに放り込んで、弱火でニンニクを加熱する。
焦げたら苦くなるので、いい匂いだなあと思いながら、
ひたすら弱火でカリッとなるまで頑張る。
このニンニク風味バターにて、先刻のたっぷりの微塵切り玉葱を、中火でひたすら炒める。
透けた薄いきつね色に、そしてネチョネチョになるまで、木シャモジでコネコネと炒める。
別の鍋で角切り牛バラ肉を、やや強火でサイコロステーキのように、
表面に焼き色がつくように炒める。
ここにさっき炒めた玉葱と、切った人参とブラウンマッシュルームをぶち込んで、
月桂樹の葉っぱ2枚と、水を適当に入れて煮込む。
ジャガイモも入れたいところだが、ピーラーでも皮を剥くのが面倒なのと、
面取りしてまで荷崩れを防ぐほど凝り性でも無いので、自分で作る時は入れない。
煮込みながら、包丁やまな板などを洗い、ゴミを片付け、
その合間に出てくるアクをまめにすくう。
そろそろセットしていた炊飯器から湯気が出てくる頃だ。
弱火にしてコトコトと、ツ・ナ・ガ・ルの連載でも書きながら時々かきまぜ、
そしてアクをすくいながら煮込む。
人参が柔らかくなったら一旦火を止め、市販のカレールーを入れて混ぜる。
さらに弱火でとろみがつくまで煮込む。
野菜も食べないといけないので、冷蔵庫からキュウリ、トマト、レタスの生野菜を出し、
適当に切って盛れば野菜サラダと称することができる。
これは10分ぐらいでできるので、ちょうど煮込みが完了する。
「何だ? 今回の連載は? カレーの作り方? ネタに困って手を抜いたな!」と、
お思いの読者へ。
実は秋山塾長から
「私もカレーぐらいは自分で作ってみたいので、男が作る簡単カレーのレシピを教えて下さい」と頼まれたので、
この場をお借りして、一回分の連載をサボらせてもらおうと企んだ。
なぜ料理をするかといえば、単身赴任が長かったせいでもあるが、
基本的には食い意地がはっているからだ。
『檀流クッキング』は、よくある美食家のオッサンのグルメ本ではない。
どちらかといえばB級の食事を、男が自分で作るための指南書である。
自分が旨く食いたいがための工夫が満ち溢れている。
料理番組のような調味料の分量についての細かい指示も無い。
確かにいちいち計量していては、味付けが上手くならない。
何度か失敗し試行錯誤を重ねて、自分のお気に入りの味ができる。
檀一雄は九歳の時に母親が家出したので、
必要に駆られて自分の食べたいものは自分で作るようになったそうだ。
自分好みの料理は、やはり自分で作れたら楽しい。
ところで、どんなに手を加えても一晩寝かせたカレーのほうが旨い。
しかし、年を取ると、朝からカレーは胃に重い。
ということで留守番の休日の昼間に作って、
夜に温めなおして買い物から帰宅した家族と食べる。
そうすれば、食事を作っておくという大義名分のもとに、
妻&娘たちの買い物に付き合わなくて済むし朝寝坊もできる。
食材の買い物は楽しいが、衣服のとくに女性の買い物は時間が長く、
なかなか決まらないので退屈である。
しかも当方の意見はほとんど参考とされない。
こちらも「どうでも良いから早く決めて」というオーラが出ていて
「良いじゃない」の繰り返しなので、そもそも男は邪魔である。
そして彼女たちは、驚くべきことに、
さんざん時間を費やした挙句に、結局買わないこともあるのだ。