今回の連載を始める前に、みなさまにご報告です!
何と、ワタクシ、今年も、クラシックソムリエの試験に行って参りました。
今年は、シルバー・クラス。
第1回目の試験なので、過去問もなく、
どんな問題がでるのかとワクワクしながら受験して参りました。
結果は…、無事合格!
今年は、ほとんど勉強する時間もなく、問題も難しくて、かなり苦戦…。
全国10位以内に入ることはできませんでしたが、
何とか20位以内には食い止まることができました。
そして、送られてきたのが、写真の合格証書とバッジ。
思ったより地味ですが…、ときどきライブのときにも付けていますので、
見かけたら、声をかけてくださいね。
さて、今回は、前回のお約束通り、
ワタクシの最も好きな作曲家、モーツァルトについて書いてみたいと思います。
そもそも、ワタクシが音楽を勉強してみようかと思ったきっかけがモーツァルト。
モーツァルトというと、みなさんは、どんな曲を思い浮かべますか?
トルコ行進曲、アイネ・クライネ・ナハトムジーク、交響曲第40番、レクイエム…、
名曲が次から次と出てくるかもしれません。
ワタクシが、音楽を勉強するきっかけとなった作品は、意外と地味な作品…。
ピアノ協奏曲第27番です。
この作品、モーツァルトが亡くなる11か月前、
1791年1月5日に作曲したといわれる最後のピアノ協奏曲で、
「晩年」の傑作といわれています。
当時、NHK‐FMの音楽番組を担当されていた音楽評論家の藁科雅美さんが、
「晩年のモーツァルトの悲しみと諦め」と評されていたのを今でも思い出します。
楽器の編成はとってもシンプル。
弦楽器のほかには、フルート、オーボエ、ファゴット、ホルンくらい。
トランペットやティンパニなどは使われていません。
透明感のある変ロ長調、寂しいくらい簡潔なオーケストレーション、
そして、モノローグのように淡々と奏でるピアノ…、
どうしたって、「冬」とか「晩年」といったイメージを連想させるような趣きなんです。
第3楽章のメロディは、この作品完成の数日後、子ども用の歌曲に転用されています。
そのタイトルが、『春への憧れ』。
タイトルに「春」がついていますが、
これは、冬のさなかに、早く5月になって、
小川のほとりに小さなスミレが咲くのを待っているという、
まさに、冬の歌なんですよね。
当時のワタクシは、「晩年」の傑作というこの作品を聴いて、
「死ぬってどんな感じなんだろう…。」なんて、思ってしまった子どもだったんです…。
自分の死を身近に考えたことのない11歳の子どもでしたから、
きっとこんな感覚を持ったのかもしれませんね。
ちょうどその少し前、祖母が亡くなりました。
祖母は、胃癌や脳梗塞で、ずっと闘病生活を送っていたのですが、
亡くなる瞬間、ほんの一瞬ですが、とっても晴れやかな表情をしたのです。
その晴れやかな顔に、2月の寒い朝の朝日がすがすがしく差していたのを、
今でも忘れられません。
天国とか、極楽浄土とか、死後の幸せな世界を表す言葉がありますが、
そんな、ただ悲しいだけではない死の一面を、再び思い起こさせてくれたのが、
この曲だったのかもしれません。
自分がこの曲で最も感動したのは、第1楽章の提示部IIの後半。
フルートとオーボエが掛け合いをするところに、
ピアノがとても美しいオブリガートを入れるんです。
今回は、楽譜も抜粋してみました。
楽譜にしたら、たったこれだけ。
6小節。演奏でも13秒ほどですので、
うっかりするとあっという間に通り過ぎてしまいます。
少し前の5:50あたりから聴いてみてください。
聴いていると、天使が戯れながら、天に舞い上がっていくような美しさがありますよね。
この部分、木管楽器は同じモチーフを繰り返しているだけですし、
ピアノは、初め、ソ(G)の音をオクターブを変えて弾いているだけです。
そして、最後に、グリッサンドで上昇。
たったこれだけなのに、ここに込められた思いの深さといったら、どうなんでしょうか!
慈しみ、諦め、憧れ、絶望、開放、浄化、束の間の幻想…。
ホント、やられたと思いました…。
音楽の力は、本当に偉大だと思います。
同じ箇所を、イングリット・へブラーとNHK交響楽団の映像 で見てみてください。
左手を大きく動かして、思い入れたっぷりに演奏しています。
ちなみに、この部分、いろいろな解釈があるようで、
バックハウスやケンプ、リヒテル、ブレンデル、バレンボエムなどの演奏では、
最後のグリッサンド(青矢印)を、スラーと解釈しているのか、
音階的に上昇していないんです。
興味深いですよね。
ぜひ聞き比べてみてほしいと思います。
この曲のもうひとつの聴きどころは、第2楽章です。
この静けさ、地味さ。
冬、朝もやの木立のなかをひとりとぼとぼ歩いているような感じ。
そこにいろいろな思いが湧いてきます。
それを、口に出すわけではなく、ただ噛みしめながら歩いていく…。
そんな感じじゃないですか?
やはり「晩年」の傑作!
死と向き合って書いた作品としか思えませんよね。
と、ここまで書いておきながら…、最近の研究で、
この曲の成立年代に関して、衝撃的な説が出てきました。
この作品は、本当に「晩年」の傑作なのか??
この続きは、次回で。
※掲載内容は連載当時(2013年9月)の内容です。