今週の週間ダイアモンドにグルメ情報サイトの「食べログ」に関する記事が出ていました。
食べログは現在、従来型の月額固定料金に
従量料金を上乗せした「新プラン」と呼ばれる契約体系を展開しているそうです。
従量料金とは、ネット予約の人数に応じて“手数料”として店側に課金されるものです。
その手数料によって店側が悲鳴を上げ始めているという内容でした。
05年に登場した「食べログ」は、
先行する「ぐるなび」や「現ホットペッパーグルメ」が
飲食店側の情報発信、販売促進の場として機能していたのに対し、
消費者の「口コミ」情報を主体にした、情報の発信者を消費者側にするという革新性で
サイトの信頼性を高めていきました。
現在、3社のシェアがどうなっているのかは分かりませんが、
実際のネットで見ていても
ここ数年の「食べログ」の躍進は際立っていたと思います。
ここにきて、飲食店側の不満が募ってきているということですから、
ネットビジネスの難しさを思わずにはいられません。
前置きが長くなりました。
久しぶりに「ぐるなび」を目にしましたので、
創業者の滝久雄氏による著作『貢献する気持ち』を思い出しました。
2001年5月に紀伊国屋書店に立ち寄った際に、
引き寄せられるようにして手にした本です。
何か惹かれるものがあり読み出すと内容は大変素晴らしいものでした。
著者は「ぐるなび」の当時の社長であり創業者でした。
自らの人生経験から得られた智恵をまとめられたものでした。
人間には貢献心という本能が備わっており、
貢献し合うことで充足感を感じることができると提言されています。
社会が複雑化し、人と人との関係性が不鮮明な時代になっています。
この混迷の時代にあって、著者のこの明快な主張は
ひとつの解決の糸口を示してくれるように思われます。
(著者は人生の補助線という表現をされています。)
私はチーム医療をテーマに活動してきましたが、
「チームスタッフは貢献し合う仲間である」と考えることで
一点突破できたように思えます。
一皮むけたような気がします。
日本におけるチーム医療の黎明期には、チーム医療加算が無かったため
日常業務の上乗せとして行わざるを得ませんでした。
ボランティア的な発想で取り組まなければなりませんでした。
しかし、気心の通じた貢献仲間たちとチーム医療活動をどんどん推進していくと、
実は自分たちが充足するということを感じるようになりました。
それは貢献心という本能に基づくと本書によって知ることができました。
(本能が満たされていたのですね。)
「貢献心は本能である」という滝氏のメッセージは
私の人生において、闇を照らす確かな灯となりました。
組織というものは、リーダーの人間観によって如何様にも変わってしまうものです。
トップが「人間とは信じがたい存在である」と思っている場合、
その組織は人間不信者の集合体になっていきます。
逆に、「人間とは信ずるに値する素晴らしい存在である」と考えるリーダーの組織は、
自ずと素晴らしき人が集まってくるものです。
取引相手にも同様な人たちが集うはずです。
「人間は貢献心という本能を持っている」と信じて疑わない
滝氏が率いた「ぐるなび」が躍進しないはずがありません。
革新的なビジネスモデルで、グルメ情報サイトビジネスという新しい分野を創設し
その後、長らくトップに君臨していたことはご存知の通りです。
全く偶然に手にした本書から多くのことを学びました。
ベストセラーになることもなく、
Amazonで調べましたら、今は絶版になっているようでした。
勿論、中古で購入できます(しかも格安で)。
ビジネス系の方にはこちらが良いかもしれません。
多くの人に読んでいただきたい良書です。
P.S. 以下に当時の私のレジメを載せておきます。
『貢献する気持ち ―ホモ・コントリビューエンス―』 滝 久雄 紀伊国屋書店
第1章 ある哲学的な出来事
- メメント・モリ 友人の兄の死
- 古代ギリシャ(BC450頃)の多くのソフィスト「懐疑主義」:
けっして人生や生命にまつわる問いに確かな答えは無いとする立場
「人間の尺度こそが,すべてのものを判断する基準」→「弁論術」
- ソクラテスの登場 「合理主義」:
「いつでも,どこでも,誰にでも,本当に正しいとされるたった一つの本質がある」
「哲学を天から地上に奪回した最初の人」(キケロ ローマの哲学者,政治家)
←真理や本質は神が決定することとされていた
「無知の知」人間が本質に接近する第一歩を,積極的に示した肯定的な考え方
- 貢献心と使命感
貢献心を認識した人が感じることのできるかけがえのない成果物=使命感
人類歴史に発展性があるとみるならば,その力の源泉に貢献心があると考える
- 「エピステーメー(確かな知)」 プラトン『ポリティア』
人間は本来,自分の本能を自然に愛するようにできている.本能をあるがままに感じて,しかも虚無感や無常観から開放されたその瞬間に,「貢献心は在って見えなかったもの」から「見えるもの」へと飛翔する.
第2章 ホモ・コントリビューエンスとは
- 他者に貢献することで,私たちはある種の「救い」のような明るさの感覚に目覚めて,そこではじめて安心できるようになる.
- 「遊び」「学習」「仕事」「暮らし」の4つの人生モード
- 第5の人生モード:「貢献」
第3章 虚無感からの脱出
- 人間が痛みや死のニヒリズムから解放されたときに見えてくるもののなかで際立って自然な貢献心がある
- 「人は後世に対しては義務こそあれ権利はない.また前世に対して権利こそあれ義務はない」
金大中大統領 朝鮮戦争 処刑直前に救助された
「せっかく拾った命なら,わが民族のために役立てたいと思った」
- 人間が死のニヒリズムから解放された時に見えてくる心の内側に,自然な本能の一つがあるならば,きっと「他者に対して自分を生かしたい」とする気持ちが浮き出してくる.
- 貢献心は「自己犠牲」からのものではなく,むしろ本能からの「自己主張」に近い
- 「フィランソロピ(社会貢献)」
第4章 義務感からの飛翔
- 削いで削いで もはや削ぎ落とすことのできない人間の原点に、貢献心の存在が見えてくる
- 貢献心の対極に位置する偽善
第5章 新時代への補助線
2018年11月14日