186. ポピュレーション・アプローチの潮流

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社会医療人の星

12月20日開催の「これからの福祉と医療を実践する会」で講演を依頼されました。

毎月開催されている医療マネジメント系の勉強会ですが、

第452回例会ということは37年以上続いていることになります。

非常に歴史のある勉強会で、数多の有名人を輩出しているそうです。

主催者からいただいたテーマは、

「健康寿命の延伸は吉か凶か

……医療機関のあり方がどこかで決まろうとしている」です。

これからの福祉と医療を実践する会

何と、大胆で意味深なテーマでしょうか?

主催者のご期待に応えられるかは今のところ微妙ですが、

折角与えていただいた機会ですから、挑戦あるのみです。

目下、“医療の主戦場が変わる”という投げかけを中心に講演を組み立てています。

一般的な講演では、これまで使ってきたスライドを並び替えたり、

若干の修正を加えたりすることで対応が可能なのですが、

今回ばかりはそうはいきません。

新規にスライドを多数作成しています。

ある意味、生みの苦しみを味わっているのですが、

一方で、最高に贅沢な時間楽しんでもいます。

健康寿命が伸びることは社会全体にとって喜ばしいことです。

しかしながら、それは同時に

病気や病人が少なくなって、医療機関にかかる人も少なくなることを意味します。

医療機関には健康寿命を伸ばすという役割が期待されているのですが、

医療機関が成果を上げれば上げるほど、

経営が厳しくなっていきます。

実際には、人間は必死で、命には限りがあるので

病が根絶することは無いのでしょうが、

健康寿命が延伸することで、病人の数や治療期間が短縮することは必然でしょう。

こうした構図は、問題解決を提供するビジネスにも見られます。

会社が頑張って業績を上げれば上げるほど、仕事が減っていって

経営が厳しくなっていくのです。

昨年2月、クックパッド㈱の定款変更が話題になりました。

会社のミッションを達成したら「当会社は解散する」と謳ったのです(何と大胆な!)。

この定款変更時の株主総会は長時間に及んだと聞いていますが、

会社のあり方としては、「有り」だと思います。

というより、真っ当だと思います。

「私たちのミッションは、自分たちが不要となる社会をつくることです」

と社会に対して高らかに宣言しているのです。

そんなミッションを私は、

「自己消滅志向型ミッション」と名付けました。

考えてみれば、医療界こそ

この「自己消滅志向型ミッション」を掲げるべきではないでしょうか?

本気で「この世から病を無くす」気概で医療に臨むべきでしょう。

あるいは病にまつわる苦悩を取り除くと言い換えてもよいでしょう。

このような真に腰を据えたミッションは

医療界に新しい視座をもたらすはずです。

医療の使命や定義を変えていくのだと思います。

下表は某50万人都市の介護関連費用を表したものです。

65歳以上の高齢者が12万人いて、

そのうち2万人が介護認定を受け、10万人は認定を受けていません。

驚かされるのは、認定者には平均で年160万円が使われ、

非認定者には年600円しか使われていないことです。

その差、何と2600倍です。

認定者 2万人(16%) 322億円(99.8%) 160万円/人
非認定者 10万人(84%) 6千万円(0.2%) 600円/人

前者は介護が必要な状態ですから、

そこに費用を当てなければならないことは理解できます。

私が問題提起したいのは、

後者には殆ど対策をしていないという点です。

こうしている瞬間にも、後者から前者の仲間入りをする人が出てくるのです。

こうした予算配分は後手の施策というしかありません。

このままでは大変な事態になることは容易に想像できます。

これはハイリスク・アプローチによる施策です。

医療界はこのハイリスク・アプローチ、ハイリスク戦略に則って設計されています。

超高齢社会では、その限界が露呈し始めているのです。

前者のみならず、後者にも同等な施策をするべきです。

これからは、全体へのアプローチ、

すなわち、ポピュレーション・アプローチ、ポピュレーション戦略への転換が必要なのです。

病気になる前に、

サルコペニアになる前に、

低栄養状態になる前に

対策を打たねばならないのです。

今、医療界に見られるこうした予防医療、未病などの新しい胎動は、

全てポピュレーション戦略に位置付けられると思います。

さて、「自己消滅志向型ミッション」に話を戻しましょう。

医療界はこれまで疾病対策に終始し、ハイリスク戦略を摂ってきました。

ハイリスク戦略に留まる限り、

「自己消滅志向型ミッション」に至ることはないでしょう。

ハイリスク戦略からポピュレーション戦略に大きく舵を切り

本気で「自己消滅志向型ミッション」を目指してみるべきだと思います。

医療界が、医療者が、そうした覚悟を決定したとき、

医療の新しい使命を再発見するに違いありません。