『サピエンス全史』、『ホモ・デウス』で一躍、時の人となった
イスラエルの歴史学者、ハラリを注目している人は多いと思います。
現生人類の有史以前からの所謂、全史を解き明かした『サピエンス全史』は、
全世界で1200万部を突破したそうです。
続く『ホモ・デウス』では、人類の未来をホモ・デウス(神のヒト)として予見しました。
前2作で過去と未来を描き、
3作目はそれらを踏まえて、「いま」に焦点を当てて書かれています。
21のテーマを掲げ、本物の知を獲得するためのレッスンが組まれています。
この手の書籍の場合、関心のあるテーマから読むというのもあるかもしれませんが、
本書に限っては順に読んでいくことをお勧めします。
それぞれのテーマが流れるように関連付けられており、
読み進める過程で思考が深まるように編成されているからです。
私たちがこれから迎えようとしている未来は、
AIとバイオテクノロジーの進歩という破壊的な技術革新がもたらす未来です。
様々な分野で華々しい進歩が遂げられるはずです。
医療の世界も大きく変わりそうです。
これまで私は、AI医師について
従来の医師が行ってきた臨床推論をAIで行うレベルでしか想像していませんでした。
全くの誤りでした。
以下の式をご覧ください。
b×c×d=ahh!
「生物学的知識(biological knowledge)と演算能力(computing power)とデータ(data)の積は、人間をハッキングする能力(ability to hack humans)に等しい(075)」
そうです。
近い将来、私たちの体内に埋め込まれたバイオセンサーによって
私たちの健康状態は24時間モニターされることになります。
恐らく2050年頃までに、
バイオメトリックセンサーとビッグデータアルゴリズムによって、
病気は痛みや障害につながるよりもはるか以前に診断され、
治療されるようになるだろうと予見しています。
その技術によって
私たちはある意味、四六時中、病気の状態になってしまうのですが、
即座に、史上最高の医療によってすべて未然に対処されるのです。
それは、パソコンのウィルス駆除ソフトがPC上に
「何々ウィルスを未然に排除しました」と報告するように、
「がん細胞を17個発見し、破壊しました」と私たちに知らせてくれることでしょう。
バイオテクノロジー革命と情報テクノロジー(IT)革命の融合は、
さらに進化して行きます。
生物進化の速度をはるかに凌駕するスピードで
生身の人間の身体的能力や認知的能力をアップグレードさせてしまうのです。
サイボーグ化による進化を遂げることになるのでしょう。
さて、多くのSF映画ではAIが人間を支配していく脅威を描いてきました。
しかし、ハラリ氏は、「それは違う」と明言しています。
真の脅威は、AIではありません。
富を以てそれらを利用することが出来る少数の人間たちです。
かつてない技術革新は、多くの人の職を奪い貧富の差を益々拡大させます。
その歴然とした差は決して埋まることはありません。
力を持った少数の人間たちが更なる欲望を掻き立てられる姿は容易に想像できます。
そうした経済格差は雇用者・被雇用者の構図を完全に固定してしまうだけでなく、
生物学的優劣という新たな格差を生み出すと指摘しています。
先に指摘した生身の人間のサイボーグ化です。
超進化した人間を生み出すことになるのでしょう。
種を超越した格差といえるかもしれません。
その格差のループは無限に拡大されていくのです。
新しい医療が近未来の社会にもたらすインパクトは計り知れないといえます。
AIとバイオテクノロジーによって経済格差、種を超えた格差が広がると書きました。
しかし、ハラリ氏が指摘したかった本質は、
別の格差ではないかと思います。
それは、自分の頭で考え行動する人間と操られるだけの人間の格差です。
AIやバイオメトリックセンサーは、
本人が自覚できない変化までも読み取り常に学習していくため、
私たちは進化し続けるアルゴリズムに操作されるようになってしまうのです。
繰り返しますが、この時の脅威はAIやアルゴリズムではありません。
その技術を利用できる一部の人間こそが脅威なのです。
やっかいなのは、操作されている人間がそれと気づかないことです。
アルゴリズムは操作される人間に相応の満足感を与えるでしょうから、
操作される人間の人生は表面的にはハッピーかもしれません。
それが故に、先の格差は粛々と拡大されていくのです。
ある意味、見えない格差といえるのかもしれません。
そんな欺瞞に満ちた社会になって欲しいとは思いません。
どうしたら良いのでしょう?
その答えを渾身の熱量でまとめ上げたのが本書なのだと思います。
常に自分の頭で考え行動し続けるしかありません。
人間が真の人間であり続けるための21段階レッスンなのだと思います。
最終レッスンで言及される世界、境涯に
唯一ともいえる希望を見出すのは、
私だけではないはずです。
2019年11月27日