161.「プレシジョン医療が導く新たながん治療」

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社会医療人の星

一時期、がんの免疫治療には様々な批判がありました。

治療効果が不確かで、高額である点もさることながら、

がん治療の免疫機構があまりに複雑で分かり難い点も影響していたかと思います。

医学生時代の私は、免疫の重要性や将来性を理解していながらも

その理論が複雑過ぎたため、どうにも理解できずにいました。

教科書を何度読み返してみても、さっぱり理解できませんでした。

正直、苦手な分野でした。

そんな免疫医療を追求している大学の同級生がいます。

学生時代から免疫学教室に出入りし研究を始め、

同じ外科の医局に所属しながらも

早々にキャリアチェンジし、免疫医療に邁進して行きました。

そんな彼の免疫に関する解説は明快で、

池上彰ばりに、とても分かりやすいのです。

学生時代に、彼に免疫学を教わっていたら

私の医師人生も変わっていたかもしれません(笑)。

免疫の話に限らず彼の話は非常に分かりやすいのです。

不思議というしかありません。

人に分かりやすく説明できるのは、

一つの才能だと思います。

その才人は、谷川啓司 君です。

以前、私の主催するプレゼンイベント MED Japanに登壇してもらいました。

とても分かりやすく免疫の話をしてくれていますので

是非ご覧ください。

書籍ももちろん分かりやすいです。

『がんを告知されたら読む本』

さて、7/27(土)開催の市民公開講座の本題に移りましょう。

がん治療において、

「オーダーメイド医療」や「テイラーメイド医療」の他に

最近では「プレシジョン医療」という言葉を耳にするようになりました。

この「がんプレシジョン医療」は、

2015年、米国のオバマ大統領が一般教書演説において、

「プレシジョン医療」を推進していくことを発表したことに端を発するようです。

プレシジョン医療(precision medicine=精密医療)とは、

これまでのような型にはまった治療法ではなく、

「必要な治療法を、必要な時に、それを必要としている人に」届けるという理念のもと、

個々人に合った治療法のことを指すようです。

結局、「オーダーメイド医療」も「テイラーメイド医療」も同じことだったのです。

したがって、これからは「プレシジョン医療」に一本化していくものと思われます。

先の谷川医師が企画した公開講座が分かり難いはずがありません。

しかも、特別講演の演者は、

免疫療法研究の第一人者、中村祐輔 氏です。

この分野における世界の最高水準の頭脳であることは誰もが認めるところでしょう。

中村氏は、東大教授、シカゴ大教授を経て、

現在、がん研究会がんプレシジョン医療研究センター所長であるばかりでなく、

内閣府戦略的イノベーション創造プログラムディレクターを務められています。

兎角、がんゲノム医療において、日本は後塵を拝していると言われますが、

日本は中村氏のがんプレシジョン医療によって大逆転を狙っているようです。

少し調べてみただけでも、夢物語ではないことが分かります。

凄いことが始まろうとしています。

どう凄いかといいますと、

私のような古い外科医の感覚では、

がんというものは発生する臓器別に性質が異なると考えてしまいます。

手術でがんを除去するという場合、

それぞれの臓器特性を熟知して、いかにがんを完全摘出するかが主題になります。

臓器別医療が進んだ背景です。

しかし、「がんプレシジョン医療」は違います。

がんゲノム医療においては、どの臓器にがんが発生しているかは二の次のようなのです。

遺伝子レベルでの治療になるので、

治療法が臓器依存ではなくなるのです。

2001年に初めてヒトゲノムが解読された際は、

1人のゲノムを読むのに数千億円のコストと相当の時間がかかりましたが、

今では1人当たり5万円ほど、2週間で解読が可能になっているそうです。

これにより、個々人の親から子へ受けつがれる

遺伝的な特性に応じたがん予防が可能になります。

また、リキッドバイオプシーという手法は

血液や唾液、尿などの体液からがん細胞の検出が可能で

がん再発の超早期診断を可能にします。

さらに、「ネオアンチゲン療法」というものがあります。

癌細胞特異的に発現する癌の目印であるネオアンチゲンを投与し、

免疫細胞を“教育”することで、癌を攻撃する免疫細胞を増やす治療法のようです。

所謂、がんワクチン療法です。

このように、「プレシジョン医療」は、

がんの予防・診断から新規の免疫療法まで、

広い分野を包括するものになっていくようです。

がん医療が大きく様変わりするでしょうし、

かつての結核のように

人類が、がんを制圧する日が近いのかもしれません。

社会医療人の星

引用:https://www.jfcr.or.jp/genome/index.html

先述しましたが、免疫療法は医師でも正確な理解は難しいのですが

それを市民向けの公開講座にやさしく仕立ててあります。

市民の方にこそ、お薦めしたいイベントです。是非!!

2019年6月19日