166.『存在のない子供たち』映画論考

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社会医療人の星

私が、やり残したこととして後悔しているのが海外生活(留学)です。

なるべく日本から離れた地で異文化を体験し、

この世界の多様性を肌で実感しておきたかったです。

とはいえ、まだ諦めてはいません。

定年を迎えて、体力および財力に余裕があるようなら

是非とも実現させたいです。

そんな考えから、

日本から遠く離れた国、レバノンの映画を鑑賞してきました。

今の日本では、全く想像もできない世界が描かれていました。

レバノンの貧民窟に生まれた主人公のゼイン少年は、

両親が出生届を出さなかったために、自分の誕生日も知らないし、

法的には社会に存在すらしていない存在です。

学校へ通うこともなく、兄妹たちと路上で物を売るなど、

朝から晩まで両親に劣悪な労働を強いられ、さらに過酷な運命に晒されることになります。

この映画の出演者のほとんどが、演じる役柄によく似た境遇にある素人です。

演技指導が大変だったと思いますが、

演技を超えた現実の重みというものが伝わってきます。

さて、映画の原題は、Capharnaüm(カペナウム)です。

ベツレヘムで生まれたイエス・キリストはナザレで育ち、

やがてカペナウムを本拠地として3年半の宣教活動(公生涯)をスタートします。

新約聖書には、たくさんのカペナウムの村人たちが登場します。

イエスは、悔い改めないカペナウムの人々に滅亡を予言します。

よって、本作では混沌・修羅場の意味合いで使われているようです。

文字通り、どうにもならない混沌とした現実がゼインにまとわりつきます。

主役を演じた少年は、本名もゼイン・アル・ラフィーアです。

実は、彼はシリア難民で、

映画の主人公と同様な人生を生きていました。

映画スタッフの目に留まり、大抜擢となったのです。

その憂いを湛えた目は、同時に強い意志力を表しています。

10歳の時からスーパーマーケットの配達をする仕事など、

多くの仕事をこなして家計を助けていたそうです。

まともな教育を受けていなかったため、撮影時には自分の名前も書けなかったそうです。

しかしながら、非常に頭の良い子であることが画面から伝わってきます。

本作の出来栄えに相当な貢献をしていることは間違いありません。

社会医療人の星

映画の中で彼は、どうにもならない現実を前に両親を訴えます。

「僕を産んだ罪」で両親を告訴したのです。

大切なのは、それは彼自身のためではないという点です。

同じような境遇に生まれ、

そこから抜け出せずにもがく子供たちを代表して

彼は行動を起こしたのだと思います。

彼の弱者に対する眼差しと実際の行動を見るにつれ

そう確信します。

人間にとって本当に大切なものは何かを教えられました。

気鋭の女性監督:ナディーン・ラバキ―にも触れておかなければなりません。

その才能に惚れ惚れします。

脚本も手掛け、何と、ゼインの弁護士役として出演もしています。

硬直した社会の難問に果敢に挑んでいく姿は

彼女の生き方そのものなのでしょう。

見習いたいと思います。

社会医療人の星

かなり重いテーマの映画ですが、

鑑賞後はとても明るい気持ちになりました。

ラストのワンショットの御蔭です。

もう一つ、明るい話題提供をしておきます。

シリア難民としてレバノンに逃れた現実のゼイン少年は

2018年8月、国連難民機関の助けを借りて、

ノルウェーへの第三国定住が承認され、家族とともに移住したそうです。

「世界は良き方向に向かっている」

そう、信じたいです。