131. 書評『心とことばの起源を探る』

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
SNSフォローボタン

フォローする

社会医療人の星

最近の私は、人生100年時代のより良きライフスタイルを模索しています。

太古の人類の寿命は20年程度で

約6000年前の農業技術の発明によって倍の40~50年になりました。

それが100年前からの医学、社会システムの発達によって

さらに倍の80~100年になろうとしています。

社会医療人の星

この急激な変化は誰も経験したことのない領域ですから、

人類の歴史や人間と霊長類との違いといった根源的な思索が必要だと考えています。

今回は人間と霊長類との違いに焦点を当てて考えてみることにします。

そこで、参考にした1冊が、

マイケル・トマセロ著『心とことばの起源を探る』です。

博士に関しては、

言語を習得する機構におけるノーム・チョムスキー博士の「普遍文法仮説」に対抗する

「用法基盤モデル」の提唱者の一人として知る人も多いかもしれません。

マイケル・トマセロ博士

マイケル・トマセロ博士

そのトマセロ博士によると、

ヒトの霊長類(恐らく他の人類も含む)との決定的な違いは

他者の意図を理解できる」という点だそうです。

ヒトの乳児においては9ヶ月から12ヶ月くらいに、

行動が劇的に変化するといいます。

それを「9か月革命」と命名しています。

「個体発生は系統発生を繰り返す」の「ヘッケルの反復説」によれば、

ヒトのみが「9か月革命」以降の社会的認知能力を獲得し

個体発生において反復していくのでしょう。

「9か月革命」の具体的行動としては、

養育者の見ている先を見ようとする(視線追従)や、

自分が何かを触っているときに養育者の反応を確かめる(社会的参照)など、

一般に共同注意(joint attention)と呼ばれる行動が挙げられます。

6ヶ月頃から9ヶ月手前までは、幼児自身と他者、幼児自身と物体という

それぞれ二項的なかかわり方(二項関係)が優勢なようです。

9ヶ月あたりを境に、自分、他者、物体が一体となる

三項関係での認識が可能になるようです。

この時期、他者の注意の所在を理解しその対象に対する他者の態度を共有することや、

自分の注意の所在を他者に理解させその対象に対する自分の態度を他者に共有してもらう行動が可能になり、

それを共同注意といいます。

その後、他者を「意図」を持った存在として認識し、

それによって自己の「意図」を意識するようになっていきます。

この9ヶ月革命によって、

ヒトは「他者の意図を理解できる」という決定的な能力を身に付けるのです。

先の三項関係の共同注意は、学習における違いも生み出します。

エミュレーション学習(Emulation Learning)と模倣学習(Imitation Learning)ですが、

前者がチンパンジー、後者が共同注意の出来るヒトの学習法です。

チンパンジーの学習や文化の継承は、行為や手段の模倣ではなく、

その結果に焦点を当てた学習です。

同一の結果をもたらす行為が2種類あって、

一方が効率的で、他方が非効率的である場合、

チンパンジーの赤ちゃんでは効率的な方法の学習頻度が高いのですが、

ヒトの赤ちゃんは両方とも同様に真似して覚えます。

つまりヒトの赤ちゃんは結果を観察してではなく、

行為する他者そのものの意図を理解、同化して模倣学習をしているのです。

9ヶ月革命以降のヒトの赤ちゃんは、

他者が自分と同じく何か行為をなそうとする存在だということが分かります。

このことから、他者のやることは自分にもできるはずだという理解が生じ、

模倣学習が可能になるのです。

これにより高度な社会関係と、文化継承が達成できます。

これは大変なことです。

一方、チンパンジーは他者の意図を理解できていないので、

他者のやることを自分が行えるというように考えられません。

チンパンジーは結果だけを見ているので、一見、効率的な方法に至れるのですが、

結果に至る行為を同じようにしようという発想がないため、

文化継承が不可能なのです。

他者の意図を認知するという能力の上に記号的な言語の習得が加わると、

子供の認知能力が大幅に向上します。

言語が認知能力に与えるインパクトとしては、

まず世界を出来事と者・物にカテゴライズすることができるようになるというのがあります。

具体的には「AはBをCする」という構文があるとすると、

「Aという者」が「Bという物」に「Cという事」を行う、

という風な認知ができるようになります。

次に、複数のものの見方ができるようになるというのがあります。

ある対象があったとして、それは状況に応じて複数の呼ばれ方をする(例えば、これはバラであり花であり贈り物である)、ということを学ぶのです。

また、類推・比喩ができるということにもつながります。

AがBするなら、CはBができたり、AはDができたりするだろう、ということで、

世界の見方がさらに増えていくのです。

「AによってBが起きた」という構文から、因果関係を学ぶようにもなります。

こうして、言語は高度な論理的思考を可能にする基盤になっていくのです。

さらに、高度な普遍的な数学的思考が可能になります。

また、コミュニケーションにより、仲間に対する道徳的思考も可能になるといわれます。

ヒトは、他者の意図を認知するという能力を獲得したことによって、

アダム・スミスの指摘する「交易する性向」を有するようになり、

それは分業を生み出し、やがて今日の繁栄につながっていくことになったのです。

9ヵ月革命の共同注意→他者の意図の認知→模倣学習→道具使用→記号使用→社会組織

この流れは、人類の系統発生を

各個人が個体発生として反復し、社会化していく様を描いているといえます。

トマセロ博士の洞察に感服です。