103. 書評『健康格差社会への処方箋』

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社会医療人の星

著者は「日本は放置できないほどの健康格差がある社会になってしまった」といいます。

本書を読めば、健康格差があることは明白です。

「健康は自己責任」「格差は経済成長にとって必要悪」という意見もありますが、

著者はそれらの考えに真っ向勝負を挑みます。

そして、解決策を提示していきます。

今週は、骨太で、志のある書(人物?)を紹介しましょう。

注目すべき本は『健康格差社会への処方箋』で、

著者は、近藤克則 千葉大学医学部教授です。

近藤克則 千葉大学医学部教授

本書は3部構成です。

第1部「なぜ健康格差が生まれるのか―『病理』編」
第2部「根拠は十分か、治療を試みるべきか―『価値判断』編」
第3部「では何が出来るか―『処方箋』編」

章立てを見ていただくだけでも、筆者の理路整然ぶりが窺えると思います。

早速中身を紹介しましょう。

第1部では、この日本には明らかな健康格差があることが示されます。

ただそれは、個々人の格差だけではないのが、著者の鋭い指摘です。

健康格差は、地域間にも認められるというのです。

極端な表現をさせてもらえば、

「人が病むのではなく、

地域や環境(人間関係を含む)が病んでいるから

 結果として病人が生まれる」

のです。

様々な疾患において、地域間の発症率に3倍から5倍の開きがある時に

病を自己責任のみに依拠させるのは酷であることに気づかされます。

地域のソーシャル・キャピタルに目を向け、

地域ごと健康にさせていくという視点、

正に上医の発想が必要であると納得しました。

WHOが社会経済的階層間や地域間に健康格差があることを

確固たる事実としていることを初めて知りました。

ライフコース・アプローチにも眼が開かれました。

*生まれる以前の親の社会階層などの因子や、生下時体重などの出生時の因子から成人期に至るまでのライフコースの因子が、健康状態にまで影響しているという理論に基づく研究

第2部では、「社会環境に介入することで、そこに暮らす人々の健康状態を改善できる」かどうかの可能性を歴史の視点から考察しています。

現在、科学的常識となっている考え方も、はじめは「仮説」として登場し、

それが科学的な方法で「実証」されるまでには長い時間を要するものです。

私も「社会環境に介入することで、そこに暮らす人々の健康状態を改善できる」という仮説にAgreeです。

いよいよ、第3部で健康格差社会への処方箋が紹介されます。

その前に、介入戦略におけるミクロ・メゾ・マクロの階層を理解しておくことが大切です。

介入主体別にみた介入戦略例(p.103

レベル 介入主体 介入戦略例
マクロ 国際機関、国 国際的な規制、勧告 社会保障政策(所得補償、医療政策、保健政策、福祉政策など)、教育政策、労働・雇用政策、税制度、経済政策、環境政策、社会的排除対策
メゾ 地方自治体 「健康都市」、独自の健康政策
地域 地域住民によるヘルスプロモーション
職域 「安全で健康な職場」
学校 『健康な学校」
ミクロ 家庭 ワーク・ライフ・バランスのとれた家庭づくり
個人 健康によい生活習慣、ストレス対処能力向上

さらに、これまで健康政策において多用されてきた

ハイリスク・アプローチの限界を理解しておかなければなりません。

筆者はポピュレーション・アプローチ、

ソーシャル・キャピタル活用に言及していきます。

理解を助けるのに格好の表がありましたので作成して載せておきます。

1~3次予防における2つのアプローチとソーシャル・キャピタル(P.161

1次予防 2次予防 3次予防
フェーズ 健康時(発病・発症前) 発病後だが発症前 発症後
内容 健康増進、
予防接種など
早期発見、
早期治療・介入
合併症・重症化予防、機能低下予防や機能回復、QOL向上
ハイリスク・アプローチ ハイリスク者向け風疹などの予防接種など ハイリスク者の発見と治療・介入 機能低下リスクの高い人を予測して介入
ポピュレーション・アプローチ ヘルスプロモーション、健康によい環境づくり マスコミによる検診勧奨、受診無料化 リハビリテーションの重要性を知らせる。受けられる場所を増やす。
ソーシャル・キャピタル活用例 健康情報や健康体操の普及、ボランティア育成、行政への働きかけなど 住民ボランティアや口コミによる検診勧奨 異様期間やリハ・介護サービスの誘致・機能維持・拡充を求める運動

武豊(たけとよ/「たけゆたか」ではない。念のため…)プロジェクトは

大変参考になりました。

「地域診断書」は素晴らしいです。可能性を感じます。

なるほど、メゾレベルでの社会参加の促進によるソーシャル・キャピタルの構築が

重要なのだと思いました。

社会参画というメゾレベルの取り組み実績が

ミクロレベルでも、マクロレベルでの成功に繋がるような気がします。

注力すべきはメゾレベルと確信しました。

(ネタバレしないようにこの辺に留めておきます。)

今回、近藤教授のJAGES(Japan Gerontological Evaluation Study,日本老年学的評価研究)の手法を学びましたので、

自分のフィールドでの応用を熟考したいと思います。

面白くなってきました。

2018年5月9日