新型コロナウイルス感染は世界規模で拡大を続けています。
4月7日の「緊急事態宣言」発令によって街の様子は一変しています。
真面目な日本国民とあって、
外出自粛も自主強化されつつあります。
当然、私も病院勤務以外の外出は自粛しています。
家の片づけも一段落したので、
以前購入していた、A・タルコフスキー監督の『惑星ソラリス』を鑑賞しました。
タルコフスキー・ファンのみならず、
映画好きにおいては外せない歴史的SF作品だと思います。
原作は、ポーランドの作家 スタニスワフ・レムの『ソラリスの陽のもとに』です。
映画脚本はタルコフスキーが手掛けており、
原作とは違った映画のラストシーンに
レムが激怒したというエピソードがあります。
さて内容に触れましょう。
惑星ソラリスは宇宙のかなたの謎の星です。
そこには、地球上に存在するような生命体は存在しませんが、
人間の記憶の一部を物質化する海があります（ソラリスの海）。
私たちが想像するのとは全く違った知的生命体なのです。
こういうSFの舞台設定はレムの天才たる所以でしょう。
主人公のクリスは心理学者で、混乱に陥っているソラリスの観測ステーションへ
原因究明のために派遣されます。
その宇宙ステーションで彼を待っていたのは異常な静寂と荒廃でした。
交流のあった物理学者ギバリャンは謎の自殺を遂げ、
残った二人の科学者も何者かに怯えているのでした。
そんなある日、突然クリスの前に、10年前に自殺した妻ハリーが現われるのです。
勿論それは、ソラリスの海によってつくりだされた物体です。
ソラリスの海は人間の潜在意識を探り出して、それを実体化するのです。
それは表面意識の顕在ではありません。
クリスが潜在意識下で苦悩していたものだったはずです。
良きも悪しきも、人間潜在意識を実体化させて
この世に生み出してしまうのです。
ここで今の社会情勢に話を転じます。
新型コロナウイルス感染拡大によってもたらされた世界規模の混乱は
人類の歴史に刻まれることでしょう。
世界がスモールワールド化していることが背景にあります。
それは実際にウイルスを世界中に拡散させましたが、
それ以上のスピードで、全人類に恐怖心を伝播させました。
所謂、「インフォデミック」です。
情報（Information）＋流行（Epidemic）が語源であり、
ネットで噂やデマも含めて大量の情報が氾濫し、現実社会に影響を及ぼす現象を指します。
心、もっと正確に表現すれば、潜在意識が現実社会に反映している点が重要です。
WHOは2月2日レポートでインフォデミックへの注意を喚起しています。
「インフォデミック」は、人間の心がつくり上げるもう一つの現実です。
トイレットペーパー買占め現象はその一つです。
私には今の社会の情勢が、先の「ソラリスの海」のように思えてなりません。
映画の中で、主人公のクリスはこんなセリフを語っています。
「僕も人を愛する」
「だが愛とは 感じることはできても」
「具体的に説明するのが困難な概念だ」
「人は 失いやすいものに 愛を注ぐ」
「自分自身 女性 祖国」
「だが 人類や地球までは 愛の対象としない」
「もしかすると我々は」
「人類愛を実感するため ここにいるのかも…」
今、人々の関心は新型コロナウイルスに集中しています。
今日の感染者、死亡者数、使用可能な人工呼吸器台数、
収容可能病床数、マスクの生産数、ワクチンや特効薬の開発見込み、
そして、この感染症がいつ終息するのか、
大切には違いありませんが、
それらだけに一喜一憂すべきではないと思うのです。
この災禍に対抗するために、権力が国家に集中しています。
自国第一主義や全体主義が水面下に広がっています。
「3密」回避の掛け声のもと、
人々が直接つながることが敬遠されようとしています。
気候温暖化も喫緊の重要課題であるにもかかわらず、
人々はそれを忘却しかかっています。
経済活動がストップしていることで若干の先送りがなされたとしても
人類存亡の危機は確実に訪れるでしょう。
自国の感染平定化を遂げた大国が脆弱な国家への支援を通して、
世界の勢力地図を一変させていくでしょう。間違いないです。
しっかりと目を開けて、ポストコロナ社会を想い描かなくてはなりません。
未来は、実は何も決まってはおらず、
私たちの潜在意識が未来のリアルをつくっていくのです。
独裁政権、無法社会、戦争という歴史の後戻りも有り得るのです。
クリスが語ったように、
個人レベルの愛を人類愛に昇華させるのは容易ではありません。
（個人レベルの愛の延長上に人類愛があるのかは不明ですが…）
「ソラリスの海」が人類愛を導く場であったように
今日の新型コロナが引き起こした世界情勢によって、
私たちをして真の人類愛を獲得する機会が与えられているのかもしれません。
（2020年4月15日）