235.『セルジオ』映画論考

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社会医療人の星

2003年8月19日、イラクで人道支援等を担っていた国連事務所が攻撃され、

当時の国連事務総長イラク特別代表 セルジオ・ヴィエラ・デメロ氏をはじめ

22名のスタッフが亡くなり、100名以上が負傷する事件が起こりました。

この時、セルジオは55歳でした。

映画は、後に妻として正式に認められる

カロリーナ・ラリエラ(経済担当国連職員)との恋愛ストーリーと

世界各地での紛争解決の回想シーンを中心に描かれていますが、

セルジオという人物を広く世に知らしめることに大変役立ったと思います。

現に、私はこの映画によって初めて彼の存在、高貴なる魂を知りました。

原作は、サマンサ・パワーが2008年に上梓した評伝

『Chasing the flame: Sergio Vieira de Mello and the fight to save the world』です。

日本のテレビがバラエティ路線に走る中、

Netflixはオリジナルの良作品を多数、世に出してくれているので

とても有り難いです。

1982年の中東戦争の和解、

1990年代の40万人のカンボジア難民の帰還、

そしてボスニアの大虐殺に終止符を打つための交渉努力、

そして、何と言っても

東ティモールを独立国家へと導いた手腕は高く評価されるべきでしょう。

映画では東ティモールでの勇敢な姿が描かれています。

国連の新規職員に向けたメッセージビデオ収録シーンから映画はスタートします。

若き国連職員に彼は、

「君を必要とするのは、窮地に立つ人々だ」と力強く語りかけます。

映画の冒頭シーンです。

彼の現場主義は徹底していました。

それ故に、最期の悲劇を迎えたとも言えるでしょう。

このシーンを観たとき、私は大学時代に出会った

国際ビデオジャーナリスト 神保哲生さんのことを思い出しました。

彼は親しい兄貴といった雰囲気で、私たちにこんなことを呟きました。

「途上国において、たくさんのストリートチルドレンを横目に見ながら、

その国の為政者たちが平気でいられるのが不思議でならない」と。

神保さんの中にある義憤の炎が

私たち学生に伝わりました。少なくとも私には…。

映画に話を戻しましょう。

セルジオはブラジル出身の外交官ですが、

その武器は武力ではありませんでした。

政治経済の難しい理論を振りかざしたところで

現実世界を動かすことは出来ません。

青臭い正義感だけで戦うことも出来ないでしょう。

餌で釣るような、小手先の操作主義も決して通用しないでしょう。

彼を見ていて、外交の本質について考えさせられました。

結局は、魂と魂をぶつけ合い、相互の信頼に辿り着くしかないのです。

セルジオという人物にはそれが出来たのです。

国連職員には勿論、

赴任した各地でも多くの人に愛されたようです。

多くの人々が彼をして「世界の良心」と称したそうです。

生前の彼を見てみたかったです。

セルジオ自身が語りかけている映像を見つけました。

映画の冒頭シーンのモチーフになった

本人による動画です。

彼の最期を知っている私たちの心に

必ずや深い何かをもたらすはずです。

こんにちは、セルジオ・ヴィエラ・デメロです。

ブラジル出身で、現在国連人権高等弁務官を務めています。

信じられないでしょうが、私は大学を卒業した21歳の時、国連で働き始めました。

これまでに東パキスタン、キプロス、南米、ボスニア、レバノン、カンボジア、コソボ、東ティモールで活動してきました。

国連には、夢をかなえる最高の機会があります。

決して忘れないで下さい。
国連で働くことの真の挑戦、そして真の報酬は、人々が苦しみ、あなたの助けを求めている場所にあるのです。

幸運を祈ります。そして国連へようこそ。

私たちは、みなさんのために最善を尽くします。

幸運を。

(2002年、ジュネーブ )

2020年11月11日