今回は久しぶりの映画紹介です。
先日、2013年公開の米国映画『her/世界でひとつの彼女』を観ました。
監督はスパイク・ジョーンズで、脚本も手掛けています。
ネタバレしないように概要を説明しますと、
映画の舞台は、近未来のロサンゼルス。
主人公のセオドア・トゥオンブリーは、
相手に代わって想いを手紙に書く代筆ライター(←近未来に存在する新しい職業のようです)をしています。
妻・キャサリンと別れて悲嘆に暮れていた彼はある日、
人工知能型OS・サマンサを手に入れます。
生身の女性よりも、魅力的で人間らしいサマンサに、
セオドアは惹かれていくという設定で物語は展開していきます。
YouTubeの予告編をどうぞ。
セオドアを演じたホアキン・フェニックス(Joaquin Phoenix)を初めて観ましたが、
素晴らしい存在感でした。
特にこの映画は表情のclose-upシーンが多いので
役者の内面表現が鍵のようですが、彼は見事に演じきっていたと思います。
もう一人、注目したいのが
サマンサ役のスカーレット・ヨハンソン(Scarlett Johansson)です。
この容姿でありながら、声だけの参加です。
声だけでありながら、存在感は抜群でした。
さて、この映画が秀逸なのは、やはりその設定、脚本でしょう。
実際、監督のスパイク・ジョーンズは、第86回アカデミー賞の脚本賞を受賞しています。
これから益々、進歩するであろうAI(人工知能)と
われわれ人間との関係を示唆する興味深い作品であると思います。
恋愛映画と捉えてしまっては話半分のような気がします。
哲学者アラン・ワッツ(1915-1973)の知能をコンピューター上に再現したOSをセオドアに紹介するシーンが有りました。
サマンサとワッツは同時に複数の思考をめぐらせ、人間には理解できない非言語の記号で議論していきます。
そこに私は137億年のスケールを感じるのですが、
高々100年足らずの時間しか持たない人間であるセオドアの
失望感や疎外感が見事に表現されていました。
セオドアが自分と同じようにサマンサと交信している人間の数を訪ねた際、
その数が600人以上と知ったときの表情が印象的でした。
まさに、AIの非言語性・同時性・複製性などの特性が
人間とは相容れないどころか、人間を遥かに凌駕しているといえるでしょう。
これまでのSF小説や映画では、
AIは人間の意に反し、人間を凌駕し、時に敵対する存在として描かれ、
脅威とみなされることが多かったといえます。
しかし、この映画では、AIが人間の意に反するところは同じでも、
人間を凌駕してしまったAIたちは、人間から離れ、別天地に去っていきます。
サマンサは、当初、肉体を持たないことに強い劣等感を持ち、
あらゆるトライアルをしますが、後に
ワッツのOSたちとともに、肉体や自然界、あるいは生命から開放された
彼らに適した無限の空間に移動していきます。
そうして、人間が作ったAIは、
人間を通過し、独自の世界を創造していくのでしょう。
その時、人間は、どうしているのでしょう?
映画のラストシーンのように
より人間らしさ(生命:いのち)に気づき、それを大切にすることを学ぶのだと思います。
(もう、完全にネタバレですね。スミマセン)
ハリウッド映画を商業主義と侮っていましたが、
本作の存在で見直しました。
最後に
サマンサのメンター的存在として登場したOSの元である
アラン・ワッツの言葉をプレゼントします。
人生とは、解決すべき問題でも、答えるべき質問でもない。
人生とは、経験すべき未知なのだよ。
Alan Watts