“post-truth”という用語をご存知でしょうか?
英オックスフォード大出版局は毎年、注目を集めた単語を発表していますが、
2016年は“post-truth”が選出されました。
「客観的な事実や真実が重視されない時代」を意味する形容詞です。
日本語では「ポスト真実の政治」などと表現されます。
世論形成において、感情や個人的信念に訴えるものが
客観的事実よりも影響力を持ちつつあるというのです。
新聞記事やテレビ・ニュースは徹底的な事実確認をした上で報道されていますが、
現実の私たちは、より多くの人々が反応するメッセージに影響されやすいのです。
極論を言えば、「真実よりも面白い話のほうが重要」ということです。
TruthやJusticeは二の次になってしまったというのです。
虚偽のニュース、すなわちフェイクニュースが
世界中に拡散されてしまう可能性が高まっているのです。
今年1月20日にアメリカではトランプ大統領が誕生しました。
新大統領は“post-truth”worldの申し子なのだと思います。
選挙中、「ローマ法王がトランプ候補を支持した」というデマが
SNSを中心に出回りました。
その情報を事実確認することもなく、多くの人々がネット上でシェアしました。
結果、何が起こったか?
トランプ大統領が誕生したのです。(言い過ぎかもしれませんが…)
実際、フェイクニュースによって劣勢だったトランプ氏の勝利を後押する結果になった
と分析する専門家もいます。
何より私が驚かされたのは、
これらのフェイクニュースの大半(140を超えるアメリカ政治サイト)を
マケドニアの10代の若者が作っていたということです。
- WorldPoliticus.com(ワールド・ポリティカス)
- TrumpVision365.com(トランプ・ビジョン365)
- USConservativeToday.com(USコンサバティブ・トゥデイ)
- DonaldTrumpNews.co(ドナルド・トランプ・ニュース)
- USADailyPolitics.com(USAデイリー・ポリティクス)
上記がアメリカ政治サイト名の一部ですが、
もっともらしい、立派な名前が並んでいます。
ニュースという体裁をとっていれば
ネット上では真偽の区別がつかなくなってしまうでしょう。
マケドニアといえばアレキサンダー大王を思い浮かべる人が殆どでしょうが、
マザー・テレサもマケドニアの出身です(←余談でした)。
いずれにせよ、人口200万人の小国に過ぎません。
何故、マケドニアなのかは分かりません。
陰謀説が好きな人は、
トランプ支持者が世界の片隅から虚偽の情報発信をさせたと主張するのかもしれません。
しかし、ネットの仕組みを知った若者が
お金を稼ぐためにやっただけのような気がします。
アクセスが多ければ多いほど広告収入が増えるのですから
世界中の関心の的であるアメリカ大統領選挙のニュースに
ちょっとした意外性のあるニュースをでっち上げ
莫大な数のアクセス数を稼いだのでしょう。
大変な時代が訪れようとしています。
先のようなフェイクニュースが世界を席巻してしまえば
真実は隅っこに追いやられてしまうのかもしれません。
正義が正義として、まかり通らない時代になってしまうのかもしれません。
理想主義者にとって、絶望的な時代になってしまうのかもしれません。
まさに“post-truth” worldの到来です。
これからの4年間は、アメリカのみならず世界中が
文字通り激動の時代を経験するのでしょう。
しかし、私は
“post-truth” worldは長くは続かないと思っています。
人間は、面白おかしさを求める一方で、
真実や正義を求める厳しい一面も持っているからです。
人類の叡智が、大きな揺り戻しをかけてくるはずです。
そして、“post-truth”時代を経験することによって
それを経験しない場合よりも
より素晴らしき時代、社会を
私たちは創り上げることが出来るような気がしています。