194. 認知の限界数

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社会医療人の星

医療マネジメントを少しでも学んだ人であれば

2011年の日本経営品質賞に輝いた川越胃腸病院のことは御存じでしょう。

医療分野からの初めての受賞で

病院でも経営やサービスの質が問われることを世に示したといえます。

川越胃腸病院

「医療は究極のサービス業でなければならない」という望月智行院長の哲学が

当時の医療界に大きな気づきをもたらしました。

数年前に川越胃腸病院に『ツ・ナ・ガ・ル』の取材で訪問したことがあります。

経営品質賞を受賞したことで、

医療関係者のみならず、

一般企業からの視察者が多数訪れていました。

実際に病院を訪ね、その雰囲気や職員の態度や受け答えから、

「ES(職員満足)なくして、CS(患者満足)なし」の信念が

徹底されていることが理解できました。

徹底した「人づくり」が実践されていました。

一人ひとりが自分たちの病院に誇りを持っていることが伝わってきました。

驚くべきことに、その誇りを

職員のみならず、患者さんやその家族までが持っているのでした。

私たち見学者に、患者さんたちが自分の病院を自慢してくるのです。

望月院長への取材の中でもう一つ印象に残ったお話がありました。

川越胃腸病院は、消化器科専門病院として1969年に設立されました。

医療が高度化する中で、専門職員数も徐々に増えていったそうです。

順調に発展したため増床を検討する機会が訪れました。

その時の望月院長の決断に驚かされました。

普通であれば、迷わずベッド数を増やして、新病棟を増築するところですが、

敢えてベッド数を減らす決断をされたというのです。

勿論、ベッド数は減らしても

新病棟を増築し高度医療に相応しい治療環境を確保することは怠りませんでした。

ベッド数を減らす決断をした最大の理由は

望月院長の認知能力の見極めにありました。

当時の病院概要は、

病床数40、常勤医師8名、看護師41名を含む職員数は120名だったと記憶しています。

先に経営の品質を保ち、さらに発展させるためには、

120人の職員数を把握するのが自分の限界だと判断したというのです。

時流に任せて増床すれば職員数も増えてしまいます。

200人、300人に増えて行く職員に対し

これまでのような家族同様の関係性を保つことは不可能だと判断したそうです。

日本経営品質賞受賞に至った最大の鍵がここにあったと私は思っています。

望月先生の「120人ぐらいが、自分が責任を持てる職員数である」という考えは、

マネジメントの世界においては立派なエビデンスが実はあるのです。

ダンバー数という考え方です。

ダンバー数とは、

ヒトを含む霊長類が互いを認知し合い、安定した集団を形成できる個体数の上限です。

1993年に英国の人類学者ロビン=ダンバーが提唱しました。

ロビン=ダンバー

ヒトの場合は平均150人程度とされ、望月院長の経験から導かれた直観に近いといえます。

このダンバー数は実際のマネジメントに応用され、

ゴア・テックス社は工場職員150人を単位に工場を建設しているそうです。

私自身の経験でも、透析一施設の患者数は150人ほどが適正だと感じています。

ダンバー数は霊長類の脳の認知能力から導かれた数字です。

身体性に依拠した数字です。

人間は身体を持った存在であり、

その身体性のリアルからかけ離れることは出来ないのです。

ダンバー数は、

この身体性の重要性を教えてくれています。

2020年1月29日