昨年末に出版された、スティグリッツ博士の『PROGRESSIVE CAPITALISM』を
ネット上で見つけてしまいました。
否、出会ってしまったのかもしれません。
¥2,640の価格に一瞬たじろぎましたが、
「中流という生き方はまだ死んでいない。」
「万人を豊かにする進歩的資本主義とは?」
のサブタイトルにノックアウトされ、即購入してしました。
はい、衝動買いです。
ジョセフ・E・スティグリッツ博士は、
2001年にノーベル経済学賞を受賞した米国・コロンビア大学教授です。
シカゴ大学時代には、宇沢弘文博士の指導を受けているそうです。
クリントン政権において米国大統領経済諮問委員会委員長を務めており、
世界金融危機の勃発を予言した数少ない経済学者です。
経済の目的はGDPではなく、市民の幸福にあるべきであり、
市場の力に頼るだけでは豊かさを維持することは出来ないと主張しています。
そんな彼にとって、
現状のトランプ政権は許しがたいようでして、
痛烈なトランプ政策批判が本書には通底しています。
さて、書名の「プログレッシブ・キャピタリズム」は進歩的資本主義ということです。
従来の金融中心の資本主義を修正し、
文字通り経世済民の立場から資本主義社会を立て直そうとするものです。
市場の力だけでは社会的公正や機会の均等を保障できません。
よって、市場の力に頼るだけでは、
豊かさを共有することも、持続していくこともできないのです。
2008年の金融危機がそれを表しているように思います。
経済が成長すれば誰もがその利益にあずかれるという、
所謂「トリクルダウン理論」が間違いであると明言しています。
確かに、経済的に最も豊かなはずの米国には凄まじい経済格差が固定化しており、
その格差が構造的に拡大しています。
米国の現状を冷静に見つめてみれば、
「トリクルダウン」が幻想でしかないことが納得できます。
ピケティの「r>g」という不等式の指摘通りです。
「レント(不労所得)」という経済用語があります。
経済的優位者がその力を用いてレントシーキングに走っているのが
今の米国社会の姿なのです。
そのレントシーキングの浅ましい姿は、表面的には見えないようになっています。
今日の経済システム、特に金融システムにおいては
様々な金融商品が複雑に乱立しています。
一見、エレガントな金融商品に見せかけているのですが、
実際はレントシーキングのための巧妙な装置となっているのです。
政治においても「1人1票」ではなく「1ドル1票」の世界になってしまったと
上手い表現をしています。
政治、経済のシステムによって、構造的に経済格差が広がっているのです。
そう言うと、経済学の祖であるアダム・スミスの「神の手はどうしたんだ」
ということになりかねませんが、
『道徳感情論』の著者でもある道徳家の彼には
今日の権力者たちのあさましい欲望は想定できなかったに違いありません。
今や『不道徳な見えざる手』(アカロフ/シラー著)が市場を支配しているのです。
スティグリッツは、「神の見えざる手」が見えない理由をこう説明しています。
「そんなものは存在しないからだ」と…。
米国の資本主義は金融工学のエレガントな衣を被って極端化していきました。
さらにグローバル化の流れが拍車をかけています。
その流れを抑制することが大切であると指摘しています。
全くの同感です。
後半の第2部では、「政治と経済を再建するために」と題して、具体案が語られていきます。
ネタバレを防ぐために詳細は控えますが、雇用、医療、年金、住宅、教育に関して、
Cool head, Warm heartで語られていきます。
頼もしい限りです。
結局、社会の様々な要素、政府、民間企業、市民の間の
社会的・経済的バランスを改善していくことに尽きるのです。
すなわち、副題に込められた中流の復活、復権が重要なのです。
本書での学びを一枚のスライドにまとめてみました。
自然界は正規分布を呈しています。
それが最も安定感のある持続可能な姿だからなのでしょう。
健全なる社会は、失われた中間層、中流の復活にかかっているのだと思います。
そうすると、古くから伝わる叡智の言葉が思い浮かびます。
“中庸”
先人たちは、すでにその重要性を洞察していたのかもしれません。
(2020年2月5日)