44.『100分de名著』宮沢賢治スペシャルに想う

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今月のEテレの『100分de名著』は、宮沢賢治スペシャル です。

毎週、このメルマガ原稿は月曜夜10:30締め切りで入稿しているので

第3回はまだ観ていません。

上記のネット番組案内を一覧したところでは、

私の最も好きな詩は含まれていないようです。

そこで、今週は

賢治の最高傑作と私が勝手に思っている「業の花びら」を紹介します。

「春と修羅 第二集」の作品第三一四番として収められています。

「春と修羅 第二集」は、花巻農学校教員時代の後半(1924年 – 1926年3月)に制作された詩群とされています。

生前は刊行されることはなく、何度も推敲がなされました。

結局、最終稿ではかなりの部分がカットされてしまいました。

私は<異稿>として遺されているこの詩が好きです。

業の花びら

冒頭「夜の湿気が風ときびしくいりまじり」は、

東北人なら分かると思いますが、何とも言えぬ冬の厳しさを感じさせます。

さびしくいりまじり」という表現が、とても素晴らしいと思います。

松や柳の樹の下から見上げた夜空には星々が輝いています。

それを業の花びらに見立てたのでしょう。

そして、その瞬間に

この世界の真理を悟ったのだと思います。

それは、以下の句から読み取れます。

わたくしは神々の名を録したことから

はげしく寒くふるえてゐる

そうです。

真理を期せずして知ってしまった、悟ってしまった後、

その事の重大さに気づき、突然、怖くなってしまったのだと思います。

次の句も印象的です。

自分は真理を掴んだのだけれども

現実世界はあまりにもその真理からかけ離れていることに愕然としたのでしょう。

ですから、

ああ誰か来てわたくしに云へ」と何度も何度も叫んだのでしょう。

この心情が痛いほど伝わってきます。

真理と現実世界のギャップを思えば思うほど、

「何故なんだ!」という叫びと迷いが噴出したのだと思います。

そして、賢治が願っていた理想社会が静かに語られます。

億の巨匠が並んで生れ

しかも互ひに相犯さない

明るい世界」です。

そうなのです。

賢治が求めた世界は、億の巨匠が活躍し共存する社会なのです。

すべての民がそれぞれの才能を発揮し、互いに尊敬し合える世の中です。

そのような明るい世界の実現を願って、

賢治は37年の生涯を駆け抜けたのです。

余白のような部分に書かれた最後の3行が

私がこの詩を愛する根拠です。

ないているさぎは、賢治自身です。

人々の幸せを願い、目を真っ赤にしながら

一晩中、冷たい沼地に立ち尽くしている賢治の姿が目に浮かんできます。

賢治に限らず、多くの先達が

人々の幸せを願いながら、人生を駆け抜けていったことを思わずにはいられません。

この、たった3行によって

私はそれらの先達の心情世界に繋がったような気がします。

「億の巨匠が並んで生れ しかも互ひに相犯さない 明るい世界」

安倍首相の「一億総活躍社会」がこの文脈で語られているかは分かりません。

が、私はそのような社会を求めていこうと思います。