北朝鮮のミサイル実験による世界の平和が脅かされている今、
ユダヤの聖典『タルムード』の一節から
世界の調和的存続について考えてみたいと思います。
「世界の調和的存続は、わずか三十六人の義人によって支えられている」
『タルムード』からの引用です。
世界の調和的存続はわずか三十六人の義人、
すなわち、神の摂理を実行する人たちによって支えられている、
という言い伝えが遺されています。
彼らの大半は、農民や職人、商人といった地味な職業に従事しており、
あまり目立たない謙虚な人たちでなければならないそうです。
しかも彼ら自身、世界の調和を支えている「三十六人の義人」のひとりだと
気づいてはいないというのです。
仮に自らがその一人であると自覚したり、他人から認知されたりする場合、
義人ではなくなってしまうという厳しい制約があるのです。
この『タルムード』のたとえ話は、
市井にあって、人知れず誠実な人生を全うしようとする人々を
どんなにか励ましてきたことでしょう。
少なくとも私にとってはそうです。
世界を支えるのに三十六人の義人が必要だとすれば、
規模こそ違え、会社や病院においても義人が必要なはずです。
病院が素晴らしきものとして存立し続けるには、
人知れず善行を施し、精神的支柱となる人間が必要でしょう。
その数が何人であるかは分かりません。
一人でも十分なのかもしれません。
あるいは世界と同じように、三十六人が必要なのかもしれません。
一般に病院の存続のための重要人物は、
難手術を軽々とこなすスーパー外科医、
最新のマネジメントに長けた辣腕経営者、
どんな難病もたちどころに診断してしまう経験豊富な内科医、
最新の学会の知見を数多く有し、身を以って患者中心の医療を実践しているスタッフ
などが挙げられると思います。
多くの患者さんたちに天使のごとく慕われる心優しきナースがいたとしても、
私は、その人が義人そのものではないと考えます。
周りからの賞賛や認知がある場合、その人は義人としての資格を失うのですから…。
人知れず黙々と汗と涙を流し、
時には血を流す人の存在こそが、
世界の存続に決定的な役割を担っているのだとタルムードは教えています。
こうしている今も、
世界と病院を真に支える義人の存在があることを私は信じて疑いません。
組織の中での自らの努力が実らず、認められないとき、
自らを憂えてしまうのが我々の常です。
しかしながら、そのような時こそ、世界とこの組織を支えているのが
この自分かもしれないと思うことは、
人間存在のギリギリのところで万人に許されているような気がします。
2017年10月4日