著者の出口治明さんは総合知を有する達人ですから
以前より一目置いていました。
私は自分の生命保険を出口さんの創設した
ライフネット生命に切り替えたほどです。
これまでも多数の著作がありますが、
私の中では本書がベストワンです。良書でした。
468ページの大作ですが、意外にすんなりと読み終えられます。
練りに練られた編集と著者の楽しく読ませる力量のためでしょう。
それなりに哲学、宗教の専門用語が出てきますが
その都度、丁寧な解説が添えられています(痒いところに手が届くといった感じで…)。
哲学と宗教という、似て非なるものをまとめ上げる力は
それぞれの専門家には出来ない離れ業だと思います。
総合知の結晶、まさにリベラルアーツです。
人類初の世界宗教はゾロアスター教であるという視点は斬新で
その解説に納得しました。
それぞれの宗教も哲学も、
お互い良いとこ取りをして出来上がっていることを知りました。
第8章(1)のイスラム教、ムハンマドについても大変勉強になりました。
イスラム教に対して偏見を持っていましたが、
ムハンマドの人柄やイスラム教誕生の背景を知り、一気に誤解が解けました。
日本人には馴染が薄いでしょうから必見です。
また、カントの『純粋理性批判』『実践理性批判』も非常に分かりやすかったです。
東洋から西洋まで
哲学から宗教に至るまで、人間の歴史が密接に繋がっていることが理解できました。
本書は、周到に整理されています。
それもそのはず、
本の虫を自称する出口さんが、数多の宗教書、哲学書を咀嚼し
自分の中に呑み込んでから
何十年も熟成させた成果だからです。
ビジネスマンとして成功し、
60歳を過ぎて初のネットによる生命保険会社を創業するという起業家の側面も持ち、
現在は、アジア太平洋立命館大学学長という教育者としての経験が活きていると思います。
学問の世界だけに閉じこもっている人には
このような大胆な切り口では書けないでしょう。
達人の切れ味とでも言うのでしょうか、お見事です。
最初と最後のページに織り込まれているパノラマ図?は圧巻です。
読み進める上でのガイドになることは勿論ですが、
私にとっては、読了後にさらにその有難味が倍増しました。
非常に完成度が高いです。さすが出口さん!
今の世界は非常に複雑です。
人類が営々と外的足場を築きながら発展してきたためです。
(外的足場については第132話をどうぞ)
この世界を丸ごと理解することは不可能でしょうが、
本書は出口流で見事に因数分解されているので、
小分けの理解を積み上げることで総合知が獲得できます。
上位概念でこの社会をつくってきた哲学と宗教の歴史を
両者を絡めながら咀嚼していけば、
複雑怪奇な現代社会も一本の補助線を得て解かれる定理のように
腑に落ちるような気がします。
コロナ禍によって世界が大きく変わるのは必定でしょう。
新しい社会を正しく構築していくためにも
人類史に根ざした総合知を身に付けたいと思います。
皆さんも是非!
文末に私の読書メモを載せておきます。
(2020年5月13日)
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- BC5世紀前後、世界に数多くの考える人が登場してきました。そして今日まで残るようなさまざまな思考の原点が、草木が一斉に芽吹くように誕生したのです。この時代を、20世紀のドイツの哲学者カール・ヤスパースは「枢軸の時代」と呼びました。世界規模で“知の爆発”が生じたのです。(56)
- ヘラクレイトス:「万物は流転する」(パンタ・レイ)(59)
- ソクラテスは人間の内面に思索の糸を下ろしました。「不知の自覚」(69)
- アリストテレスの描く世界像は、プラトンのそれとは違って動的であり、きわめて広い意味で生物主義的である。(94)
- しかしアリストテレスは、きれいに世界を整理しすぎたかもしれない。(99)
- 孔子は2メートルを超える長身でした。(115)➡マジか?
- 墨子:「非攻(ひこう)」≠反戦
- ヘレニズム:古代ギリシャ人の自称「ヘレネス」が語源(138)
- エピキュリアン:快楽主義 ≠エピクロスの「アタラクシア」(心の平静)(140)「隠れて生きよ」
- ストア派(ゼノン➡マルクス・アウレリウス)の「アパティア」人生の徳を実践することで結果的に得られる。運命を受け止めて生きよ(144)
- 諸子百家(152)
- 孟子 井田制(せいでんせい)土地を9等分します。すると井戸の「井」という字に似た形になります。この9等分された土地の真ん中は共有地として… (168)
- トマス・アクィナス 第一原因 神の宇宙論的証明(267)
- 朱子学:性即理→格物致知→知先行後 VS 陽明学:心即理→致良知→知行合一 (283)
- ボッカチオ『デカメロン』:「一日の花を摘め(カルペ・ディエム)」「今この瞬間を楽しめ」(291)
- ベーコンはシェイクスピアの本名か? (315)➡えっ?
- ヒューム:「知覚の束」
- デカルト「人間が不完全なのに完全を求めるのは、完全を知っている神が教えてくれたからだ」(326)
- アメリカ:世界で初めての社会契約国家(人工国家)(346)
- フランス共和国:第2の人工国家(347)
- トマス・ペイン「コモン・センス」(348)
- カント『純粋理性批判』➡「感性」「悟性」による2重構造 (354)
12のカテゴリー(認識の枠)
- カント「形而上学的な問題は理性が扱うべき問題ではなく信仰の問題だ」(358)
- 『実践理性批判』:「自然界には自然法則があり、人間界には道徳法則がある」(359)格率(maxim):行動原理 「自律」「自律を達成したとき、人間の格率すなわち信念は道徳法則と一体になる」➡「目的の王国」 ケーニスブルクの街で一生を過ごしたカント
- ヘーゲル:絶対精神 「世界精神が馬上ゆたかにイエーナの町をでていく」(370)
- ショーペンハウアー:「絶対精神によって進歩に向かっているのではない。歴史を動かしているのは、人間の盲目的な生への意志である」(380)
- マルクス「哲学者たちは世界をさまざまに解釈したにすぎない。大切なことは世界を変えることだ」「ここがロドスだ。ここで跳べ!」(397)
- ソシュール「人間は言語という記号を使い、世界に区切りをつけることによって世界を認識する」(425)
- フッサール 「現象学的還元」(426)「エポケー」
- サルトル「実存は本質に先立つ」(435)、「人間は自由の刑に処せられている」 「アンガージュマン」(436)
- レヴィ=ストロース 『野生の思考』 「社会の構造が人間の意識をつくる。完全に自由な人間なんていない」「世界は人間なしに始まったし、人間なしで終わるだろう」