いや~、素晴らしい本でした。
正確には、素晴らしい人でしたと言うべきでしょうか?
「武器シリーズ」で瀧本さんの存在は以前から知っており、
NHK深夜のニュースキャスターぶりも時々、拝見していましたが、
彼の本質を掴み取れてはいませんでした。
本書によって、彼の本質を初めて理解できました。
正しく、日本の宝だったと思います。
京大の瀧本ゼミ生は現代の吉田松陰と称していたそうですが、納得です。
昨年8月に病によって早逝したことは、私も当時のニュース報道で知りましたが、
今頃にして、その損失の大きさに気づきました。
『2020年6月30日に またここで会おう』
タイトルからして、心に呼び掛けるものがあります。
2012年6月30日、東京大学の伊藤謝恩ホールで、
29歳以下の若者300人を前に行った講義の紙上再現が本書です。
私が毎週のメルマガ原稿を書くのが、月曜の20時から22時と決まっています。
今、前日の2020年6月29日です。
本来なら、明日、東大の伊藤謝恩ホールに
瀧本氏から薫陶を受けた志士たちが全国から大勢、集ったはずです。
とんでもない熱量が発せられ、とてつもない磁場となっていたはずです。
もしかしたら、瀧本氏は霊にでも何にでもなって、
約束通り会場に顕われるのかもしれません。
そして、そんな淡い期待を抱いて、全国から志士たちも実際に参集してしまうのかもしれません。
そう信じたくなってしまうほどの人物でした。
彼を知らなかった人のためにプロフィールを転記しておきます。
京都大学客員准教授、エンジェル投資家、教育者 麻布高等学校、東京大学法学部を卒業後、大学院をスキップして直ちに助手に採用されるも、自分の人生を自分で決断できる生き方を追求するという観点からマッキンゼーに転職。3年で独立し、日本交通の経営再建などを手がけながら、エンジェル投資家としてアイデアとメンバーしかいないような極めて初期の段階の企業を支援し続ける。京都大学では「意思決定論」「起業論」「交渉論」の授業を担当し、人気NO.1若手教官として「4共30」講義室を立ち見に。各界において意思決定を先導するリーダーを育てることを目標に、選抜制の少人数自主ゼミ「瀧本ゼミ」を主宰。著作物やディベートの普及活動を通して、次世代への教育に力を入れていた。2019年8月10日永眠。
折角ですから本の紹介もしておきます。
例によって、私の読書メモです。
- 「自燈明(じとうみょう)」:「わしが死んだら、自分で考えて自分で決めろ。大事なことはすべて教えた」(13)
- ジョージ・ソロス:東欧の共産主義国を倒すため、私財でコピー機をバラまいた(16)
- 「武器モデル」(17)
- アラン・ブルーム『アメリカン・マインドの終焉』「教養の役割とは、他の見方・考え方があり得ることを示すことである」(30)
- 右手にロジック、左手にレトリック(言葉をいかに魅力的に伝えるかという技法)を(40)
- パラダイムシフトとは世代交代だ(66)
- アンカリング:人は金額なり条件なり枠組みなりを相手から先に提示されると、そこを基準に考えてしまう(90)
- 「理論可能性バイアス」(98) 世界一切れるハサミ
- 猿の飼育係の仕事は、自分は人間だと誤解している猿に餌をあげて、「明日は休みで家族連れがたくさん来るからよろしくお願いしますね」みたいな感じで機嫌を取ること(102)(←笑)
- 交渉は「言ったもん勝ち」ではなく、「聞いたもん勝ち」なんですね(118)
- マーク・グラノヴェッター『弱い紐帯の強み』(132)
- 「アイデアを話したらパクられてしまう」って心配してしまうのは、たぶん、あなたがその事業をやる理由がまだ圧倒的に弱いんです(174)
- 「その人にしかないユニークさ」というのが、いちばん盗めない(180)
- 航海において意思決定をする立場にない船員は、「ボン・ヴォヤージュ」って挨拶はしない(201)
- 2020年6月30日に、またここで会いましょう。(204)←泣ける。。
瀧本さんのような人を私はギフト体質と定義しています。
規模こそ違えども、ギフト体質の人に時々、出くわします。
私自身も実のところ、このギフト体質を意識している訳でして、
誰かに自分の持てるものをプレゼントしたいと日々、考えているのです。
(正直、与えるべきものが手元に無くて、ドギマギしていますが…)
よくよく見れば、この修羅の巷には
ギフト体質の人が溢れています。
これは真実です。どうか信じて欲しいです。
そして、この世の中自身もギフト体質だということを…。
彼の2012年のあの伝説の講義は
明らかに後の世に対するギフトでした。
それを受け取った志士たちは、
その場に居合わせなくて本書から彼のギフトを受けとった私も含めて、
その恩を返す宛先を失っています。
で、あれば、より良き社会をつくって、未来に恩を返すべきなのではないでしょうか。
2020年6月30日、瀧本氏の本願もそうであるに違いありません。
(2020年7月1日)