35.メリル・ストリープのスピーチと『ディア・ハンター』のアメリカ

社会医療人の星

米ゴールデン・グローブ賞の授賞式で1月8日、女優のメリル・ストリープさんが行ったスピーチが話題になっています。

お時間のある方は動画をご覧ください。

以下、一部を引用します。

それは、この国で最も尊敬される席に座りたがっている人が、障害を持つ記者の物まねをしたときのことです。特権、権力、反撃力において、はるかに自分が勝っている相手に対しての行為です。

その光景に私の胸は打ち砕かれ、いまだに頭から離れません。なぜなら、映画の世界ではなく現実で起きてしまったことだからです。

権力者が公の場で他者をばかにしようとする衝動に身をゆだねてしまえば、あらゆる人たちの生活に波及します。人々に同じことをしてもいいと、許可を与えることになるからです。

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左が問題のトランプ次期大統領の記者のモノマネ・シーン

右がモノマネされたSerge F. Kovaleski記者(関節拘縮あり。現在はNY Times記者)

メリル・ストリープといえば、私にとって最も印象に残っているのは

『ディア・ハンター』でのリンダ役です。

ロバート・デ・ニーロに大抜擢された当作品でアカデミー賞助演女優賞にノミネートされ

大女優への一歩を踏み出しました。

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『ディア・ハンター』は私の大好きな映画の一つですが、

デ・ニーロ演じるマイケルはアメリカそのものなのだと思います。

主役に自分の名前を使用したマイケル・チミノ監督は

自身が信じるアメリカの姿をマイケルに投影させたのだと私は確信しています。

そういう目でこの映画を観ていただければ

メリルが今回、語らずにはいられなかった危機感が理解できるのではないかと思います。

ロシアンルーレットの絶体絶命の状況から親友のマイケル、ニック、スティーブンが

脱出した後、丸太にしがみついて濁流を下るシーンがあります。

自軍のヘリコプターに見つけられ、3人は救出されようとしていましたが、

スティーブンが力尽き川へと落ちてしまいます。

その時、マイケルはとっさに濁流に飛び込み、溺れかかっているスティーブンを救出します。

このとっさの行動が、アメリカそのものなのだと思います。

正確には、オバマ政権までのアメリカだったのかもしれません。

マイケルが英雄となって帰還した際にも、

友人たちの歓迎パーティーを避けて、翌朝、ひっそりと帰宅します。

そんな奥ゆかしさに、私はアメリカの真摯な一面を感じたりします。

ベトナム出征前日には、立派な鹿を射止めましたが、

帰国後には鹿を撃ち損じてしまいます。

マイケルとしては、正しいことをしてきたはずなのに

ベトナム以後は思うように事が運ばないのです。

そんなマイケル(アメリカ)のやるせなさが、

STANLEY MYERS作曲のCavatinaに見事に表現されています。

この曲も是非味わってください。

余談ですが、マイケルの友人の一人にスタンがいます。

護身のために常に拳銃を持ち歩き、鏡の前の自分にウットリとしてしまうような男です。

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私にはその姿が、次期ナントカさんとダブって見えて仕方ありません(外見は似ていませんが…)。

さらに余談ですが、

スタン訳のジョン・カザールはメリルの婚約者でした。

(『ディア・ハンター』封切り前に肺がんで亡くなっています。)

さて、メリルのスピーチに話を戻しましょう。

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メリルやそのスピーチに賛同した人たちが、

心の奥で問い掛けていたものは何だったのでしょう?

私は、アメリカの矜恃(≠矜持)だと思います。

それは、私が『ディア・ハンター』のマイケルに感じていたものです。

これからの4年間、

トランプ氏とロシアとの関係にも根深いものがありそうですし、

アメリカの矜恃が根底から覆されることが起こらないとも限りません。

しかしながら、そのような時だからこそ

メリルのようなスピーチが生まれ、

振り子の揺り戻しが連綿と続くのでしょう。