01.「白鯨」メルヴィル

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山中英治 文学? 散歩

「白鯨」 メルヴィル

「白鯨」メルヴィル

草の根塾の秋山塾長から「連載お願い」というメールを頂戴しました。

塾長も私も消化器外科医ですので共通した雑誌を読みます。

私は「臨床外科」という雑誌に2001年から毎月3年間
「文学漫歩」というコラムを連載したことがあり,
塾長から文学漫歩の焼き直しで結構なので
「ツナガル」に連載をお願いしたいという依頼でした。

加齢とともに生来の不精に拍車がかかり,
あらたな文章は書けそうにないので,
まあ焼き直しで良いならとお受けしました。

ということで読んだことのある先生方には申し訳ありませんが,
十年を経て医療を取り巻く環境も変わりましたので,
少しはリニューアルして記述しますからご容赦ください。

秋山先生に「ところでツナガルという誌名の由来は?」と尋ねました。

気象庁の「アメダス」がAutomatic Meteorological Data Acquisition Systemの略で
「雨出す」と洒落ているので,きっと語源があると期待しておりましたが
「わかりません」とのお答えでした。

関西人は「雨出す」も「雨だす」だと信じています。

関西では「雨や」の丁寧語の「雨でやす」から「雨だす」となりましたので
大阪の天気予報は「明日は午後から雨だす」と言います。

というのは嘘で今時「~だす」はまず使いません。

私がtuna galでマグロ女ですか?と振ったら秋山先生にウケました。

関西人の私はしばしばこのようなしょうもないネタを書きますのでどうかご寛大に。

マグロと言えば,ワシントン条約締結国会議で
クロマグロの国際商業取引禁止案が否決され
日本はほっとしましたが,
日本のように昔から食用にしていた国まで捕獲禁止になってしまった
クジラの二の舞にならないように,乱獲は控えねばなりません。

日本の水産技術はすごいのでクロマグロの完全養殖も成功していますし,
サバを代理母にするという画期的な計画まで実現しそうです。

牛や豚のように飼育できればクジラのように
「頭が良いから」とかいう理解不能な理由での捕獲禁止などにはならなくてすむでしょう。

絶滅危惧種というだけでしたら,産科医,小児科医のみならず,
われわれ外科の勤務医の平均年齢も年々上がっております。

私たちの世代は私のように外科医と言えば
颯爽として格好いいというだけの理由でも
たくさんの医師が外科に入局しましたが,
あまり労働条件がよろしくないのと,
治って当然のような風潮や,
とくにミスなどは無くても結果が悪いと責められるということもありまして,
若者が減りつつあります。

日本外科学会の新入会者すなわち新しい外科医は減る一方で,
このままのペースなら2018年にはゼロになるという試算です。

いちおう鯨よりは頭は良いかと思いますので,
ぜひ絶滅の危機から救ってほしいものです。

欧米はクジラを食用ではなく
単に燃料としての鯨油を取るだけのために乱獲していましたが,
鯨の捕獲をテーマにした「白鯨」も,
環境保護団体の圧力で発禁になるかもしれないので,
今のうちに読んでおきましょう。

「白鯨」はMoby Dickというニックネームのついた巨大で凶暴な鯨を,
この鯨にかつて片脚を食いちぎられた船長と船員たちが
捕獲しようと追い求める物語です。

ジョーズやカリブの海賊ばりのテーマですから映画化もされています。

乗組員同士の友情や,プロの職人技,船長と巨鯨との壮絶な戦いなど,
冒険物語としてだけでも十分に読み応えがあるのですが,
モームが世界の十大小説に挙げるくらいですから,
それだけではなく人間と鯨との戦いを象徴とした
哲学的な思想も盛り込まれています。

さて初回だけは焼き直しは失礼と思いまして
「文学漫歩」に無かった「白鯨」を紹介させて頂きました。

「文学漫歩」でもそうでしたが,
いつも表題の文学作品の内容には少し触れるだけで他は雑談です。

まずは初回で発禁処分にならないことを祈っております。

※掲載内容は連載当時(2010年5月)の内容です。