第38 回ヨーロッパ臨床栄養・代謝学会
(European Society for Clinical Nutrition and Metabolism、以下ESPEN)
が、2016年9月16日~9月20日、デンマーク コペンハーゲンで開催されました。
ESPEN2016については、31号をどうぞ(学会取材記事)。
上記では触れませんでしたが、一つの特別講演が印象に残っています。
日本古来の「うま味」が科学的に証明されて
世界語になったという興味深い話です。
余談ですが、
1985年に開催された第一回うま味国際シンポジウムを機に、
うま味(英語表記=UMAMI)が国際的用語として使用されるようになったそうです。
日本古来の「うま味」の話をヨーロッパの栄養学会で、
デンマークの大学教授(Prof. Ole G. Mouritsen)の講義を
日本人の私が有り難く拝聴するという構図が
何とも言えぬ、「うま味」を醸し出していると思うのです。
西洋では、酸味、甘味、塩味、苦味の4つの基本的な味しか認識していませんでした。
しかしながら、日本では古くから料理に昆布だしが使われ、
昆布に含まれる成分においしさの元があると知られていました。
1908年に東京帝国大学・池田菊苗博士は
昆布からグルタミン酸を取り出すことに成功しました。
このグルタミン酸が昆布だしの主成分であることを発見したのです。
そして、その味を「うま味」と名づけました。
第五の味覚である「うま味」が、科学的に証明されたのです。
素晴らしい業績です。
因みに、翌年の1909年には
世界初のうま味調味料「味の素」が発売されています(←早業です)。
「うま味」を呈する物質は、大きくアミノ酸系、核酸系、有機酸系の3つに分けられます。
それを下表にまとめました。
3種の「うま味」物質
〈アミノ酸系〉 アミノ酸はたんぱく質を構成する最小単位の物質。たんぱく質自体は無味ですが、それを構成するアミノ酸には甘味、苦味、うま味などを中心としたさまざまな呈味があります。うま味を呈するアミノ酸の代表的なものは、昆布や野菜類、発酵食品(味噌・醤油)に多く含まれるグルタミン酸です。 |
〈核酸系〉 核酸はヌクレオチドとも呼ばれるリン酸を含んだ物質。生物の代謝や運動エネルギー源となるアデノシン三リン酸(ATP)が有名です。うま味物質として知られるのは、煮干し、かつお節、魚、肉類に多く含まれるイノシン酸、干したきのこ類に多く含まれるグアニル酸です。 |
〈有機酸系〉
有機酸とは一般に窒素を含まない炭素化合物のことを言い、酢酸、クエン酸、乳酸、コハク酸が有名です。この中でうま味を呈するものは貝類に多く含まれるコハク酸が知られています。 |
これらは、蛋白質や核酸に富んだ細胞の原形質成分に多く含まれ、
生物が主として蛋白質の豊富な食物を容易に探知できるように発達した味覚と考えられています。
アミノ酸の一種であるグルタミン酸は植物に、
核酸の一種であるイノシン酸は動物に多く含まれます。
因みに、核酸系のイノシン酸は1913年に小玉 新太郎 博士(池田菊苗 博士の高弟)が、
グアニル酸は1957年に国仲 明 博士が、それぞれ発見しています。
Mouritsen教授のプレゼンは、
「うま味の相乗効果」にも言及していました。
アミノ酸系のうま味成分と核酸系のうま味成分が食品中に混在すると、うま味が増します。
これを「うま味の相乗効果」と呼びます。
実際に
日本料理では昆布だし(グルタミン酸)と鰹だし(イノシン酸)やシイタケのだし(グアニル酸)を合わせるといった調理が行われ、
中華料理でも長ねぎ(グルタミン酸)と鶏がらスープ(イノシン酸)を合わせるといった調理が行われています。
フランス料理でもセロリ・にんじん・玉ねぎ(グルタミン酸)と肉(イノシン酸)とが組み合わされています。
すなわち、「うま味の相乗効果」は
「グルタミン酸」×「イノシン酸(グアニル酸)」によって生み出されるのです。
「うま味」のベースを「グルタミン酸」がもたらし、
「うま味」の相乗効果を引き出すのが「イノシン酸(グアニル酸)」なのです。
上段にはうま味のベースとなるグルタミン酸を有するアミノ酸系の食材が
下段にはうま味の相乗効果を生み出す核酸系の食材が、
含有量を基準に並べられています。
グルタミン酸の最高峰が昆布であり、
核酸の最高峰が鰹節であることを示しています。
「うま味」における最高峰の食材が日本食によって既に見出され、
それが今日の科学によって証明された事実は、
日本人の感性そのものの豊かさを実証しています。
最近、日本の食卓から「だし」の文化が失われつつあると聞きますが、
少なくとも我々の先祖は卓越した感性を有していたことが分かります。
恐るべし。日本人!
2018年12月12日