206. 新型コロナとハイエク『致命的な思い上がり』

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社会医療人の星

新型コロナウイルスの世界的感染拡大は未だ出口が見えません。

私の身の回りにも感染者や濃厚接触者が出ています。

感染拡大が静かに忍び寄ってきています。

参加予定だったイベントも、自分が企画しているイベントも

次々と中止を余儀なくされています。

オリンピックでさえ1年延期になっている状況ですから

殆どのイベントが年内開催は難しいのかもしれません。

先が見えない時に頼りになるのが歴史の教訓です。

1918-1920年に世界各国で大流行した

スペイン風邪(H1N1亜型インフルエンザ)が参考になりそうです。

1918年のパンデミックです。

その3年弱の期間で、当時の世界人口の4分の1の5億人が感染したと報告されています。

死者数は1,700~5000万人と推定されています(1億人という説もあります)。

注目すべきは、その流行に三つの波があり、終息までに3年もかかったという点です。

ワクチンも特効薬も持ち得ていない今の私たちの状況は、

1918年と同等なのだと思います。

  • 第1波:1918年3月にアメリカのデトロイトやサウスカロライナ州付近などで最初の流行があり、アメリカ軍のヨーロッパ進軍と共に大西洋を渡り、5月から6月にヨーロッパで流行した。
  • 第2波:1918年秋にほぼ世界中で同時に起こり、病原性がさらに強まり重篤な合併症を起こし死者が急増した。
  • 第3波:1919年春から秋にかけて、第2波と同じく世界で流行した。さらに、最初に医師・看護師の感染者が多く医療体制が崩壊してしまったため、感染被害が拡大した。

(wikipediaより引用)

1918年の第1波が、現在の2020年春に重なります。

スペイン風邪の第1波が1918年の夏に一時下火になったとすると、

2020年夏に新型コロナも若干、下火になるのかもしれません。

しかし、それも束の間で、

第2波がこの秋に毒性が強まって再拡大すると歴史は教えています。

さらに翌年の春から秋にまた世界中に大流行し、1920年12月まで続いています。

となると、2021年春に再流行して、

結局、2022年12月にやっと終息すると予想されます。

2021年の東京オリンピックも開催が危ぶまれるのかもしれません。

こんな予測をすると

今は科学が進歩しているからそんなことにはならないという声が聞こえてきそうです。

勿論、全く同じではないでしょう。

ワクチンや特効薬の開発は、当時より早めることはできるでしょう。

それでも治験を経て実用化までには1年以上を要するはずです。

私が強調したいのは、約20万年前にアフリカの地で誕生したホモ・サピエンスは

身体的にも知力的にも殆ど変わっていないという点です。

ダーウィニズムを過度に信奉する現代人は

ここ1万年の期間に自分たちが飛躍的に進化したと思い込んでいます。

しかし、そんなことはありません。

環境変化への適応から肌の色や鼻の高さ等は変わったとしても

免疫システムを含む身体そのものは全く変わっていないのです。

知力も精神力も同等です。

特段、賢くなっている訳ではないので、長期の外出制限には耐え切れなくなって、

経済的配慮からも夏が来る前に社会活動を再開することになるでしょう。

勝手な予測ですが、夏に社会、経済活動が再開され、

その影響で秋以降に第2波が起きるのではないかと危惧しています。

以後同様に第3波がやってくるというスペイン風邪と同じパターンになるのではないかと思っています。

ふと頭に浮かぶのが、ハイエクの至言です。

どう行動するかを学習することは、洞察や理性、そして知性の産物であるよりも、その源泉である。人は賢く、合理的に、そして善く生まれるのではなく、そうなることを教えられなくてはならない。道徳をつくったのはその知性ではなく、むしろその道徳に規制された人間の相互作用が、理性とそれに関連する諸能力の成長を可能にするのである。人間は学習すべき伝統 ―本能と理性の間にあるもの― があったから知的になったのである。

       ハイエク『致命的な思いあがり』

フリードリヒ・アウグスト・フォン・ハイエク

1899年生まれ。オーストリア、ウィーン出身。経済学、政治学、法学、から心理学、哲学にまで横断する大思想家。社会主義、全体主義批判を展開した『隷属への道(1944)』で一躍時の人に。その後、1974年ノーベル経済学賞受賞。1992年死去。著書に『自由の条件(1960)』『法と立法と自由 (1979)』(すべて春秋社)など。

現代人は、人類は非常に進化していて

自然界を、地球を完全に支配できると思い込んでいる節があります。

しかし、ハイエクに言わせれば、

それはとんでもない「致命的な思い上がり」です。

私たちの知性を過信してはいけないと警告しているのです。

私たちホモ・サピエンスは、

劣る立場でありながら様々な変化に対し、

外的足場を築きながらかろうじて発展してきたに過ぎないのです。

*外的足場については第132話をご参照ください。

132. 巨人の肩の上に立つ
「巨人の肩の上に立つ」(Standing on the Shoulders of Giants)は、 Google scholarの標...

今回の新型コロナ感染拡大は、

私たちをして「致命的な思い上がり」を改悛させるものとなるはずです。

私自身、「人類の未来は明るい」と根拠もなく思い描いていましたが、

ここへ来て鼻っ柱をへし折られた感じです。

「致命的な思い上がり」を卒業して、

世界は一つ、onenessの世界観に肚を決め、

新しいポストコロナ社会を描いていこうと思います。

(2020年4月22日)