現生人類のホモ・サピエンスは、
営々と外的足場*を整え、進歩してきました。
*外的足場(External Scaffold):アンディ・クラーク『現れる存在』
私は、科学技術の発達、社会における法の整備、各種制度の充実、文化の成熟などから、
理想社会実現のための準備はすでに整っていると感じています。
問題は、富を、価値を適正に配分できない人間の弱さにあると思っています。
経世済民(けいさいさいみん)の学問である経済学を
“配分”の学問と称することに大賛成です。
この“配分”という古くて新しい問題にどう処するかで
理想社会の実現は決まってしまうような気がしています。
このメルマガでは、これまでに田坂広志氏の書評をいくつか書いてきました。
- 『生命論パラダイムの時代』http://tunagaru.org/akiyama-essay/123
- 『意思決定12の心得』http://tunagaru.org/akiyama-essay/100
- 『仕事の思想』http://tunagaru.org/akiyama-essay/106
- 『プロフェショナル進化論』http://tunagaru.org/akiyama-essay/124
- 『深く考える力』http://tunagaru.org/akiyama-essay/95
さらに氏の膨大な著作群から私が考えるキーワードで羅列してみます。
壮大な宇宙論、歴史や社会への深く鋭い洞察から始まって、組織や仕事の在り方に移行し、
最近では人間的成長や心の問題を扱った書籍が多いようです。
世の中全体が取り組むべきテーマが、
心に収斂してきているのかもしれません。
前置きが長くなりました。
本の中身に話題を移しましょう。
Amazonの「商品の説明」欄の目次を抜粋してみます。
田坂氏の著作はどれもそうですが、
「漏れなく、ダブりなく」のMECE(ミーシー)*が徹底しています。
*MECE:Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive
「壁」に問題が提起され、「技法」に解決策が整然と並んでいます。
見事としか言いようがありません。
(本書を読了後にこの目次を凝視すれば、激しくご同意いただけると思います。)
第1話 【学歴の壁】 「優秀さ」の切り替えができない ― [棚卸しの技法]
第2話 【経験の壁】 失敗を糧として「智恵」を掴めない ― [反省の技法]
第3話 【感情の壁】 感情に支配され、他人の心が分からない ― [心理推察の技法]
第4話 【我流の壁】 「我流」に陥り、優れた人物から学べない ― [私淑の技法]
第5話 【人格の壁】 つねに「真面目」に仕事をしてしまう ― [多重人格の技法]
第6話 【エゴの壁】 自分の「エゴ」が見えていない ― [自己観察の技法]
第7話 【他責の壁】 失敗の原因を「外」に求めてしまう ― [引き受けの技法]
いくつかの珠玉の言葉を引用します。
➡ 医者の世界には多いような気がしてなりません。肝に銘じます。
➡「顔を洗って出直します」の言葉には、1ミリの反省もないと思い知りました
➡ 自分との対話を大切にしたいと思います。
➡人間の「心の機微」を大切にします。
優秀な人ほど、周りの他人の欠点がよく見えてしまい、心の中で、「あの人は、これが欠点だ」「この人は、ここが問題だ」といった批判的な思いを抱いてしまうのです。
それが、優秀な人ほど、「人を好きになる」ということができない理由であり、…
➡深く納得!
師匠の持つスキルやテクニックを「真似る」ということの本当の意味は、…
…「真似をして、真似できないもの」を知ることです。
➡深い!!
ときに厳しい声で指摘してくれる「師匠」を、心の中に育てておくこと
➡このような境涯を目指してみたい。
➡この言葉で、「多重人格」への理解が深まった気がします。
➡裏表のない人間を演じることは、実は楽をしていただけだと知りました。
「精神のスタミナ」を鍛えていきます。
➡思い当たります。
ただ、静かに見つめる
否定も肯定もせず、ただ、静かに見つめる
➡素晴らしい智慧です。
➡他責の壁 それは、今の私にとって昇りきれない大きな壁です
終話において、
と書かれています。
ネクストとして書かれている究極の技法については、
ご自身で読んで噛みしめていただきたいと思います。
くれぐれも7つの技法を踏まえた上で、終話に臨んでください。
さて、冒頭で私は、
「理想社会実現のための準備は整っているにも関わらず、
人間の弱さの故に、適正な“配分”がなされていない」と書きました。
また、最近の田坂氏の著作の主題が、人間の成長や心の世界に移行している
と指摘しました。
「7つの技法」と終話の究極の技法で以て
人間が可能性を十全に開花することこそが、
理想社会実現への近道なような気がしてきました。
2018年10月24日